♢きっかけ

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−ターゲットの女に、紙袋を渡すこと− 先日まで、真っ当に工場で弁当の具材を詰めていただけの俺である。 『真っ当に』と言ったが、同じバイトをしている連中は朽ち果てた見た目の奴が多かった。 そいつらの履歴書を見たことは無いのに、顔が前科を語っていた。 そして顔つきで物を言うならば、俺も例に漏れることは無かった。 とにかく金が欲しかった。 それでも悪に手を染めきれずにいた俺は、 やりがいも生きがいも無いこの場所で、毎日働くだけだった。 弁当を詰める連中には、1人ずつ役割が与えられている。 昼間も薄暗い工場の中で、 白い防護服のような制服を身に纏いながら コロッケを入れる係。 米を盛る係。 米に黒ゴマを乗せる係。 この工場内でコロッケの係は花形と呼ばれている。 しかし、それは語尾にカッコワライ、が付いているような物で、 その役割を喜んでやるようなバカは居なかった。 寧ろ喜ぶべき所でも口角が上がらない、 捻くれ者か裏切り者しかいないような職場だ。 ただ一日中、コロッケばかりを見つめている。 ゴマだって然りだ。 それでも俺たちは、このつまらない空間から抜け出せないでいる。 抜け出して待っているのは、ここよりも肩身の狭い、窮屈な世界なのだ。 俺は一刻も早く脱出をしたかった。 脱出をする権利は、まだ得られないでいた。 バイトの昼休みは、毎日12時ぴったりに訪れる。 賄いという名の余り物が支給される為、 貧乏な仲間たちと共に少し乾いたキュウリの漬物を貪る。 俺たちは、上手いも不味いも言わない。 ただ決められた時間に、決められた物を口に入れるだけである。
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