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−ターゲットの女に、紙袋を渡すこと−
先日まで、真っ当に工場で弁当の具材を詰めていただけの俺である。
『真っ当に』と言ったが、同じバイトをしている連中は朽ち果てた見た目の奴が多かった。
そいつらの履歴書を見たことは無いのに、顔が前科を語っていた。
そして顔つきで物を言うならば、俺も例に漏れることは無かった。
とにかく金が欲しかった。
それでも悪に手を染めきれずにいた俺は、
やりがいも生きがいも無いこの場所で、毎日働くだけだった。
弁当を詰める連中には、1人ずつ役割が与えられている。
昼間も薄暗い工場の中で、
白い防護服のような制服を身に纏いながら
コロッケを入れる係。
米を盛る係。
米に黒ゴマを乗せる係。
この工場内でコロッケの係は花形と呼ばれている。
しかし、それは語尾にカッコワライ、が付いているような物で、
その役割を喜んでやるようなバカは居なかった。
寧ろ喜ぶべき所でも口角が上がらない、
捻くれ者か裏切り者しかいないような職場だ。
ただ一日中、コロッケばかりを見つめている。
ゴマだって然りだ。
それでも俺たちは、このつまらない空間から抜け出せないでいる。
抜け出して待っているのは、ここよりも肩身の狭い、窮屈な世界なのだ。
俺は一刻も早く脱出をしたかった。
脱出をする権利は、まだ得られないでいた。
バイトの昼休みは、毎日12時ぴったりに訪れる。
賄いという名の余り物が支給される為、
貧乏な仲間たちと共に少し乾いたキュウリの漬物を貪る。
俺たちは、上手いも不味いも言わない。
ただ決められた時間に、決められた物を口に入れるだけである。
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