♢きっかけ

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黙々と飯を食って、 それから屋上にある喫煙所で一服しているところだった。 空が嫌味な程に澄んでいた。 俺らを見下す空の天気が良ければ良い程、 工場の中は空気が悪かった。 「金さえあれば」 タバコの煙は、上げれば上がるほど薄く消えていく。 空を汚している気分だった。 また強く煙を吐いた。 「おいお前、金が欲しいのか」 突然声を掛けてきたのは、少し離れてタバコを吸っていた先輩だった。 年齢は知らない。 名前も知らない。 声を聞いたのも初めてだった。 彼が工場に入ってきたのも、随分と最近なのだ。 それでも周りでゴマを擦る奴らが「先輩」と呼んでいるから先輩だ。 彼は皆から恐れられている人物だった。 『昔は人を平気で血塗れにしていたらしい』 『3回刑務所に入ったらしい』 『刑事にコネがあるお陰で、幾つもの事件を煙に巻いてきたそうだ』 どこから吹いた噂かは知らないが、 無意識にも彼の話を耳に挟むことは頻繁であった。 「…だとしたら?」 昼休憩の終わるチャイムが鳴った。 俺が仕事場に戻ろうとすると、 先輩は後を付いてきた。
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