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黙々と飯を食って、
それから屋上にある喫煙所で一服しているところだった。
空が嫌味な程に澄んでいた。
俺らを見下す空の天気が良ければ良い程、
工場の中は空気が悪かった。
「金さえあれば」
タバコの煙は、上げれば上がるほど薄く消えていく。
空を汚している気分だった。
また強く煙を吐いた。
「おいお前、金が欲しいのか」
突然声を掛けてきたのは、少し離れてタバコを吸っていた先輩だった。
年齢は知らない。
名前も知らない。
声を聞いたのも初めてだった。
彼が工場に入ってきたのも、随分と最近なのだ。
それでも周りでゴマを擦る奴らが「先輩」と呼んでいるから先輩だ。
彼は皆から恐れられている人物だった。
『昔は人を平気で血塗れにしていたらしい』
『3回刑務所に入ったらしい』
『刑事にコネがあるお陰で、幾つもの事件を煙に巻いてきたそうだ』
どこから吹いた噂かは知らないが、
無意識にも彼の話を耳に挟むことは頻繁であった。
「…だとしたら?」
昼休憩の終わるチャイムが鳴った。
俺が仕事場に戻ろうとすると、
先輩は後を付いてきた。
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