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「幾ら欲しいんだ」
一瞬戸惑った。
いつ見てもクマの濃い先輩である。
それから彼は返事も待たず、誰にも言うなと耳打ちしてきた。
「どうだ、俺が指定した女に荷物を渡すだけで大金が手に入るとすれば」
金額の指定はしなかった。
だが彼の表情は、なんら冗談を言ってるような顔では無い。
「上手くいけば、自由になる額は手に入る筈だ。
お前はもっと羽ばたくべきだと、俺だって常々思っている」
誰にも言ったことのない下らない野望が見透かされていた驚きに、緊張感を覚えた。
ただの睡眠不足では無く、身体に悪そうな目元をした男である。
タバコの匂いがツンと鼻の奥に響いた。
『合図と共にすれ違う女に紙袋を渡す』
先輩は、上手くやれば大事にはならないと言った。
「丁度代わりになってくれる奴を探してたんだよ。
いやあ、良かった良かった」
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