♢スーツケースの女

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これは例の相手なのか、それとも本当に道に迷っているというのだろうか。 チラッと老人の方に目を向けたが、老人は既に居なかった。 彼の素早い動作は、只者では無いことを表していた。 そして今俺を助けてくれる者は、もう誰も居ないのだ。 「この場所に連れて行って貰えませんか?」 女は俺の目の前に、スマホの画面を差し出した。 地図は路地裏の怪しげなバーを指している。 この時ようやく、女の魂胆に気がついた。 駅前で怪しい行動をせぬよう、他の場所に導いているのだ。 女は俺の目を真っ直ぐ見ている。 俺はゆっくりと頷いた。 もう後には戻れない。
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