23.文化祭

1/1
前へ
/46ページ
次へ

23.文化祭

 ◇◆◇ 「スリラーのダンス、執事カフェ、女装カフェ」黒板に白いチョークで候補をあげていく。 「はい。多数決で……女装カフェになりました!」  よしゃあ!!勝利。うちのクラスの出し物は、私が提案した女装カフェになりました。るんるん。  青木くんが、恨みがましい瞳でこちらをじろりと見ているが、うろたえる私ではない! 「男子は、女装メイド。女子は男装執事にするのはいかがでしょうか」という意見がでたので、女装&執事コスプレカフェになりました。  提供するものは、紅茶、コーヒー、ジュース、手作りクッキー、手作りチュロス。  部活の方でも出し物をする生徒もいるので、主に女装するのは部活に入っていない子。ふふふ。つまりは青木くんも女装しなきゃいけない感じになります。いやぁ、楽しみで仕方ないねぇ。扇を仰ぎたい気分である。  手慣れたもんだなぁ。  手芸部や演劇部の人たちは、楽しそうにミシンがけをしている。その間、私は手作りクッキー、チュロスを料理が好きな子たち集めて、なるべく早く焼けて、失敗しない分量を模索する。  ちなみに、ヘアメイクとメイクは青木くんにお願いした。本業ですものね。  そしたら、当日。 「ねぇ、男子ちょっと可愛すぎない」 「だよね。何だか女性として悔しい。負けている気がする」  女装する男子8名くらい皆、美人メイドに変貌を遂げていました。  青木くんも綺麗だけど、その他7名も思いの外、とっても可愛らしく仕上がっている。特に色黒でごつい菊池くんが、清楚系メイドになっているので、クラスの女子だけではなく、男子もざわついている。 「ウィッグは、店長に借りてきたのと俺の自前」と自慢げに青木くん言っているけど、周りの人たち、青木くん女装趣味なの?とザワザワしてきているよ。でも、まぁ良い。面白いから続けて。  一方、執事はいまいちだなぁって感じだった。一応さらしで胸抑えてみたんだけどね。どうしてもかっこいい感じにならないなぁ。肩と首が華奢だからかしら。  佐藤先生も下見にきて、驚いていた。 「すごいな……、青木が女だったら……正直、俺イケるかもしれない」なんて、かなり危険スレスレなことをぼそっと呟いていた。うん、確かに青木くんの女装は完璧で、それこそ歩いていたら、目を惹く感じの色っぽい美人さんに出来上がっている。 「皆、決して汗かくなよ。メイクが落ちるからな」と青木くんが自分に酔ってそうな女装メイド達に呼び掛けて文化祭がはじまる。鏡みて、菊池くんなんかは手鏡を女子から借りて「俺ったらきれぇ」とうっとりしているから、その性癖が芽生えたんではないかと危惧している。  私は綺麗な青木くんと共に、呼び込みに出かけることにした。 「あぁ、紗枝。なんだ、それ。執事かぁ」と、話しかけてきたのは、幼馴染の正樹だ。「そうだ、文化祭終わったら、俺の家こない?母ちゃんが紗枝に会いたいって」と言われた。「正樹のお母さん、懐かしい!会いたいなぁ」そういうと、隣の青木くんが間に入ってきた。「すごい美人ですね~」正樹が顔をぽーっと赤くさせている。  ま、まずい。青木くんの吸引力が、正樹に。 「いいなぁ、私も行ってみたい」と、青木くんが裏声を出している。 「は、はい。いいですよ。ってか、紗枝。こんな綺麗な友達いるなら、早く紹介しろよなぁ」と顔を赤くした正樹に腕で小突かれたが、だいぶ前に紹介したのになぁと思う。  恐るべし青木くん。てか、正樹くん、その目の前の美女、貴方よりバリバリ背高いし、体格良いけど気付いていないのか......鈍いな。そういえば、正樹はそういう残念な子だったような気がする。 「また、後から連絡しろよー」と正樹に言われ、解散すると青木くんは「俺も仲良くしたいなぁ、ねぇ、紗枝。アイツの家に行くときは、絶対に……絶対に俺も誘えよな」と怖い声色で、可愛く首を傾げていた。  可愛いけど、嘘っぽい笑顔が怖い。仕草と声色のギャップがすごい。相変わらず後輩には厳しいようだ。  青木くんを見て、「きれい」や「あんな人いたっけ?」という人が老若男女問わず、喫茶に殺到し、うちのクラスの出し物は大盛況だった。ちなみに、クッキーやチュロスはどうしてもコスプレをしたくない子たちが作ってくれました。そう考えると青木くん、案外乗り気だったから、女装好きなのかもしれないな。  出し物が終わって、メイド服を脱ぐとき、男子が「あぁ、俺の可愛いがもう終わってしまう」と若干寂しそうだ。ウィッグをはずすとやっぱりみんな男の子だなぁ。髪の毛を上に流している青木くんは凄まじい程綺麗だけどね。オールバックもすごく似合う。おでこのカタチも良いなんてずるい。  それから、皆で打ち上げをした。  案外材料費や被服代をひいても、結構なお金がでたので、お持ち帰りピザやら、ケーキやら、ジュースやら、スナック菓子を購入し、楽しく過ごすことができた。  青木くんも人気者で、女子たちがこぞってメイク方法について、質問していた。私も勿論聞き耳を立てている。  こうやって、青木くんの得意なことが生かされて、それに対して皆が興味を持ってくれて嬉しいなぁ。楽しそうに説明しているから、青木くんもこうやって話したかったのだろう。  女装も素晴らしかったけど、青木くんの腕も凄いからね。いつも、研究して頑張っているんだから。  私は、ふと外の空気が吸いたくなり、外へ出る。  今日は写真も沢山とれた。集合写真も沢山。3年生の卒アルの係の人に、写真を寄付しよう。青木くんの女装姿も上手く撮れてそうだ。青木くん、モデルもうやらないのかなぁ。個人的感情抜きにしても、被写体としてかなり優れている。筋肉の付き方、身体のバランスなどに加え、所作も素晴らしい。 「紗枝、どうした?」そう、ドアをあけて青木くんが心配した顔で入ってくる。 「ううん?なんでもないよ。ちょっと、暖房暑くて。密閉しているからか、空気こもってて」  本当のことなんて言えない。  青木くんが皆と仲良くして、嫉妬してたなんて、そんなこと。  かっこよくて、おしゃれで―――  これが青木くんの本来の姿なんだから、自然と人が集まるのも当たり前。  これから、青木くんは学校を卒業し、本格的に美理容について学ぶんだったら、おしゃれでキラキラした人たちが多い中、わざわざ前髪で顔を隠したりしないだろうと思った。すごく魅力的な人だ。もちろん、環境が変わり、色々な人と関わることになるだろう。だから、私だけが独占するなんて無理なことは当たり前だし、分かっている。  もしかして私、青木くんが独りぼっちの方が嬉しいのかもしれない。  そんな最悪な考えが浮かんでいる間に、青木くんは「そっか」と目を細めて私の頭を撫でてくれる。  大きな手。この手が、優しくて好きだ。私に微笑む青木くんが永遠に自分のことだけ見てくれたら良いのになぁ。  時間は止まってくれない。もう11月だ。春にはクラス変え。私はクラスが変わっても青木くんと仲良しでいられるのだろうか。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加