第2話: 彼女(2)

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第2話: 彼女(2)

コーヒーは空になり、小説も半分程度読み終えた頃、搭乗のアナウンスが響いた。人が続々と搭乗口付近に集まり、並び始めた。私は大した手荷物もないので、列が短くになってから並ぶ事にした。 「トイレに行くわよ! 早くきなさい!」  小さな男の子が、必死に母親の後を追いかける。母親は、小さな女の子を抱っこしていた。お母さんは、大変だなと思いながらも、なんだかほっこりしてしまう。  私は空になったコーヒーカップをゴミ箱に捨てると、バックパックを担いで、列にならんだ。先ほどの親子が、私の後ろに並んだので、「どうぞ」と言って前を譲った。母親は恐縮していたが、子供達から、「ありがとう」と言われると、ちょっと嬉しくなる。  搭乗口を抜け、細い通路を歩き、飛行機の入り口まできた。キャビンアテンダントに席の番号を告げると、奥の通路にいくよう促された。ちらりと、ビジネスシートの方を見て、いつかあそこに座ってみたいなと思いながら、私は奥へ奥へと歩いていった。  席の番号を確認しながら奥に進むと、自分の席は丁度右翼の根本付近だった。まあ一番エンジン音が響く場所だ。ディスカウントチケットで日本と米国を往復していた時も、私の席はこの辺りだった。でも今回は、出張で行くので、恐らく正規料金を払ったと思うのだが、それでも私の席の位置は代わり映えしない。きっと運がないのだろう。  私はバックパックを頭の上の収納棚に押し込むと、2列シートの通路側の席に座った。見慣れた狭くて窮屈なシートである。身長163cmで、体重55Kgの自分でさえ狭いと思うのだから、体のでかい欧米人は大変だろうな思ってしまう。私は読みかけの小説を開くと、直ぐにその世界に埋没していった。  飛行機が静かに動き出すのを感じた。窓の景色がゆっくりと変わっていく。滑走路には、離陸を心待ちにしている大小の飛行機が並んでいるのが見える。もうすぐ離陸だ。飛行機に乗り慣れていても良さそうなものなのに、離陸する直前は、心がざわざわする。決して離陸が恐いわけではない。でも、何故か好きになれない。きっと、心が大地から切り離されるのを拒絶しているのだろう。  
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