第4話:朝食(男)

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第4話:朝食(男)

目覚めると、ベッドに彼女はいなかった。 私は目を擦りながら、階段をゆっくりと降りる。 コーヒーの良い香りがする。 キッチンに立つ彼女。 私は彼女の側に立つと、「おはよう」と言って、キスをした。 彼女が手で、席に座ってっと指示をする。 私が席に着くとほぼ同時に、テーブルにハムエッグが置かれた。 香ばしいベーコンの香り、美味そうだ。 「どうぞ」と言いながら、彼女がコーヒーを差し出してくれた。 「ありがとう」 自然と言葉がこぼれてくる。 コーヒーを一口飲む。 うまい。 私はコーヒーの余韻を味わった。 「先に食べてて」と彼女が言う。 サラダボウルにモリモリとサラダはあるのだが、取皿がなかったので、席を立って食器棚から取皿を取り出す。 最初の彼女のサラダを装い、そして自分の分を装った。 彼女は「ありがとう」っと、満面の笑みで言いながら、トーストを渡してくれた。 「ありがとう」 トーストから、バターの良い匂いがする。 トーストを一口齧ると、バターが口の中に広がる。 止められない。 トーストを頬張っていると、「トーストのお代わりいるでしょ?」と彼女が聞いてきたので、首を縦にふって返事をした。 彼女は、静かに白く細い手で、食パンをちぎって食べている。 その何気ない仕草が、とても綺麗に見える。 「綺麗だ」 自分で気付かないうちに、言葉にしていた。 「もう少し経つと、花びらが薄いピンク色になって、もっと綺麗になるわよ」 「サクラの事じゃないよ」 「何が綺麗なの」 「あなたです」 彼女の目を見れなくて、思わず目を逸らしてしまう。 テーブルに置いてあるマグカップを手に取りながら、彼女を見ると、ほんのり頬が紅くなっている。 ああ。この絵を描こう。 ああ。この絵が描きたい。 私は、この一瞬をものにしたい。 そう心から思った。
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