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「未来からタイムワープしてやってきました。一村 春人です。僕は後一年で死んじゃうので、と言うかこの星も後五年後にはなくなるけど、興味があったこの時代で過ごそうと思います」
高校二年生の春、転校生がやってきた。
一村の自己紹介で教室は転校生と言うわくわくした響きのある空気から、頭のおかしい人が来たと言う残念な空気に変わる。
変な自己紹介をした一村だが、見た目は普通、素朴と言っていいだろう。だからこそ奇抜な自己紹介をしたのではないかと思う人が何人かいた。
「つまり未来人ってことー?」
からかうように野次を飛ばす人。転校生を楽しみにしてたが変な発言で興味をなくした人。教室はがやがやとしだす。
先生がお決まりの「静かにしなさい」と言う言葉が教室に響くが静かにならず。がやがやとした中、先生は一村を五列あるうちの窓際から二列目の一番後ろの席に座るよう促した。
それから昼休みには転校生の噂が三回あった休憩の間に広まっていた。そのせいか他クラス生徒が変な転校生はどんな奴なのかと見に来る。
そんな好奇な視線もよそに、一村は廊下側の席に座っている一人の女生徒に話しかける。
「君、川枝さんだよね?それ何のゲーム?」
川枝と呼ばれた生徒は手にゲーム機を持ったまま視線を一村に移す。
「育成RPG……」
川枝はなぜ転校生が自分に話しかけてきたのか考える。自分に話しかけるメリットなどないだろうと思い、不思議そうな顔で一村を見て返事を待つ。
が、何をしているか分かったことに満足したのか、ゲームの話ではなくこの学校がどんな所か尋ねる。
そんな二人のやり取りを見て周囲は、二人に聞こえるか聞こえないか分からない程度の音量でこそこそと話す。
「あのヘンテコ転校生、アレに話しかけるなんて」
「いいんじゃない。ヘンテコ同士お似合いだよ」
川枝 夏実はクラスで浮いた存在だった。
その理由は三つあり、一つはこだわりが強いこと。二つ目は恋愛話に興味がないこと。そして三つめ……、親が人殺しだと言うこと。
こだわりの一つがさっそく昼食時に表れた。
川枝は最初に肉なら肉、卵なら卵、魚なら魚だけを食べ終え次に野菜類、最後にご飯やパンといった順番に食べる。
その理由を聞いた者いわく、その順番じゃないと落ち着かないだそうだ。
それだけだと変わってはいるが、そこまで引くものでもない。だが川枝の場合、パンなどに具が挟まっているものの場合も具だけ先に食べ残ったパンだけを食べる。
その食べ方を見た人は奇妙と言い離れていった。
「川枝さん、変な食べ方だね!」
一村は面白がるように言う。
川枝のこだわりは他にもあった。
机の右半分にはノート、左半分には教科書。そう決めていた。誰かがいたずらに適当に入れたときも、川枝はノートと教科書全てを机の上に出して分けてから入れ直した。
「僕も見た目にはこだわってるんだよねー」
黙々と食べている川枝の近くで一村は一人で喋りだす。
「みんなが言ったようにもっと奇抜にしても良かったんだけど、そんなウケを狙ったような見た目にしたらつまらないし、かと言って不細工にしたらみんなと話せないでしょ。この時代の人たちは自由に顔変えられないからか顔であれこれ決めつけてくるからね。だからこの時代のごく標準顔にしたわけ」
教室が沈黙する。そんな中、最初に口を開いたのは川枝だった。
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