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殺した少女の死体を貪る。
異様で残虐な光景も、咎めるものなどいはしない。
口元を真っ赤に染め、恍惚に震える少女を彼女たちを見下ろしているはずの月でさえ咎めることはできない。
今宵は、月明かりのない新月の夜なのだ。
夜闇に谺する少女の笑い声。
痛々しい傷口から溢れた血液は舐め取られ、殺された少女は色を失っている。
恐怖に見開かれたままの瞳は絶望に染まり、光を失って虚空を彷徨う。
生前の愛らしい面影など何一つ残さず、赤く染まった少女に全てを奪われた。
「ああ、まだ足りないわ……」
汚れた口元を袖で拭い、少女はぽつりと呟く。
薄い唇から漏れるのは鉄錆の香るため息。
「でも、もう夜明けが近いのね」
いくらか明るくなり始めた空を見て、彼女は動き出した。
夜が明ける前に戻らなくてはならない。
路地裏に熱を失った死体を転がしたまま、少女が歩き出す。
その足取りは軽く、まるで奪った命の分だけ力を付けたようだ。
――夜明けまで、あと少し。
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