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「……っ!!」
外に出た瞬間、風が強く吹き荒れて目の前を砂埃が舞った。
「気をつけろよー! お前、ちびなんだから」
風圧に少しよろめいた僕に前方からダンが声をかける。
「っ、ちびじゃないし!」
僕は急いでラクダを引き連れ、月明かりに照らされたダンの足跡を追いかけた。
僕達が住む街は国の中心地から大分外れたところにあって、すくそばに砂漠が隣り合っているような小さな街だ。
だから、大半の人間が主に行商で生計を立てている。この街の人間は一人で砂漠に出られるようになってからが一人前だと言っても過言ではないくらい。
「とりあえず、この辺でいっか」
砂漠を小一時間程歩いた所でダンがラクダから降り、適当な場所に腰を下ろした。僕もダンに倣って隣に座り、空を見上げる。
数多の星々がそれぞれに光を放ちながら漆黒の空に浮かんでいる。
「わぁ!」
静寂な砂の世界から見上げる満天の星空は、簡単には言い表し難い程に綺麗だった。
「いいなぁ。君はいつもこんな景色を見ているのか……」
僕はダンや皆と違って身体が小さくて体力もなかった。
その所為で親からは『もう少し大きくなったらね』『大人になったらね』と、長旅の隊商には殆ど参加させてもらえなかった。
でも、ある日、また留守番を命じられて不貞腐れていた僕を、ダンが今みたいに特別に連れ出してくれた。
それからダンが隊商から帰ってきた日は、だいたいこうやってダンの土産話を聞くようになった。
護衛も積荷もない、誰にも内緒の二人だけの隊商だけれど、僕はこの時間が人生の中で一番好きだった。
「……お前だって、もう見ようと思えば見れるだろ」
「無理だよ、僕は! ダンみたいに風を読むのも、星を読むのも得意じゃないから」
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