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ダンはすごいんだ。今よりもっと小さな頃から、隊商でも大人たちの先頭を切って進んでいた。
僕はそんなダンに追いつきたくて、ダンと一緒に夢を叶えたくて、自分なりに色々頑張っているつもりなのだが、まだ全然ダンの足元にも及ばない。
“いつか、自分達の隊商を作る”
それが僕達2人の夢だった。そう、大人になったら、2人で。
「なら、もっとすげぇもん見せてやるよ」
そう言い放ったダンはすくっと立ち上がると、深まるばかりの暗闇の中を躊躇う事もなく突き進んでいった。
僕はまた慌ててダンの後ろへ続いたけど、どこを目指しているのかさっぱり検討もつかない。
「……」
でも、目の前に続く僕のより少し大きい、力強い足跡。いつだってそれが導いてくれるから、僕は殆ど迷うことはなかった。
程なくして、ダンが唐突に立ち止まった。僕は鈍臭いことにダンの背中に鼻先をぶつけてしまった。
「っ、ダン?」
痛む鼻を抑えていると、途端にまたあの強烈な風が吹いてきて、反射的に目を瞑った。
程なくして、どこからか不思議な匂いが漂ってくる。
例えるなら、どこかのオアシスに沢山の植物が生い茂っているようなそんな瑞々しい匂い。
僕はおそるおそる目を開ける。そして、とてつもなく驚いた。
だって、そこは辺り一面赤い花で埋め尽くされた別世界だったから。
「何これ!」
花はとても珍しい形をしていた。30センチ程の長い茎の先に、複数の朱色の花が散形状についていて、花の中心には、ぴんと伸びた針のようなものが何本も上向きにそそり立っている。しかも、茎には葉が一枚もついていなかった。
砂漠にこんなオアシスがあったこと自体にも驚いた。
しかし、目の前で咲き乱れている花を僕は今まで一度も見たことも聞いたこともなくて僕はそれ以上に酷く興奮した。
「な、すげぇだろ?」
振り返ると、いつの間にかダンが後ろに立っていた。
「どっかの国で、ヒガンバナって言うらしいぞ」
「へぇ!」
鼻の穴を膨らませ、空気を吸い込んで匂いをかぐ。そっか。さっきの匂いは、これかぁ。
「……お前も触る?」
一輪の彼岸花を指先でくるくると弄んでいたダンが、ふと僕にそれを向けた。
「ありがとう」
僕はそれを受け取ろうと手を伸ばす。
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