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「……触るな!!」
でも、この手に渡ってくるはずだったヒガンバナは、凄まじい怒号と共に宙を舞い、最後はあっけなくぽとりと目の前で落ちた。
「え……?」
空っぽの手のひらと、険しい顔をするダンの両方を僕は情けなく見比べる。
「な、なんで?」
「……お前までこっちに来てどうすんだよ」
穏やかに苦笑いを浮かべるダンは、いつものダンで。さっきの剣幕はいったいどうしたんだよ……。
「お前も、本当はもう分かってんだろ? 俺はもうこの世の人間じゃないってこと」
ひたすら困惑している僕にダンが衝撃の事実を告げる。
「……何言って」
「俺は、死んだんだ」
一斉に彼岸花がざわついて揺れた。
その瞬間、呼応するように僕達を取り巻いていた毒々しい程の赤がぐにゃりと歪んで、溶けて。だんだん煤けた茶色へと塗り変わっていく。
その見慣れた茶色の中に、半ば埋もれるようにして倒れている人影を見つけた。姿かたちからして大人の男性のようだった。
目を凝らし、その男性を見ていると何かが引っかかった。すごく誰かに似ているような……。
ーーー僕?
『ダンは死んだのよ』
その時、僕の脳内で誰かの声が木霊した。
『ダンは絶対、死んでなんかない!』
今度は強く反論する少年の声。
『ダンが死んだなんて……そんなの、絶対嘘だ。嘘だ。嘘だッ』
聞こえてくる少年の悲しい叫びが、だんだんと低く男性のそれになっていく。
『僕が絶対、ダンを探してみせるから!』
ーーそうだった。思い出した。僕がここにいる理由も……5年前のあの日の出来事も。
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