上杉と武田

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上杉と武田

「上杉くん何か関西弁喋ってよ?」 「何でやねんとか普通に使うんでしょ?」  転校初日、クラスメイトからウザイ絡み方をされて上杉は愛想笑いをしながらやり過ごしていた。  関西人が珍しいのかスクールカースト上位らしい者達が数人集まり、休み時間に上杉を囲む。 「あー関西人が皆んなオモロいわけ無いやん。ウザイから絡んで来んといてくれる?」  そんな言葉を呑み込んで上杉は当たり障りない対応をしていた。  上杉はこの学校生活をなるべく目立たず平穏に過ごしたかった。  転校初日、目立つのは仕方ないにしても早く馴染んでその他の目立たないモブになりたかった。  囲んでいた一人の派手目な女子が上杉の顔を覗き込むと突然、上杉の耳に掛かった髪を掬い上げた。 「あれ? 上杉くんピアスあいてるじゃん? 透ピか外すかしないと生徒指導引っかかるよ」 「あーそうなん? 前の学校緩かったから気にせんかったわ。ありがとう外すわ」  笑顔でピアスを外すと派手目の女子は恥ずかしそうに笑った。  自分のケバい化粧は生徒指導引っかからんの? そんな事を思いながら上杉は外したピアスを無造作にポケットに突っ込んだ。  集まって来た数名から自己紹介をされたが覚えるつもりのない上杉には右から左だった。  転校なんて面倒臭い。    二時限目の授業が始まると上杉は何となしに教室を見渡した。  一番後ろの席なので、クラスメイトを観察する様に眺める。  先程絡んで来た者達は派手なグループらしく目立ちたく無い上杉には好ましくない。  かと言って一人孤立するのも面倒くさいのでこの中で目立たずに馴染めそうな者がいないかと物色する。  ぼんやり眺めていると、斜め前に座っていた生徒が消しゴムを床に落とした。足元に転がって来た消しゴムを上杉が拾うと振り向いた生徒と目が合った。 「落ちたで」 「ああ、ありがとう」  消しゴムを受け取ると無愛想に軽く会釈して斜め前に座る生徒はすぐに前を向いた。  愛想のないその態度が上杉には妙に引っかかった。  斜め後ろから盗み見ると、きっちりと制服を着崩すことなく着用し、椅子に座る後ろ姿は姿勢良く綺麗だった。  武田貞継(さだつぐ)。  名前からして堅い。眼鏡にやや長め黒髪の真面目そうな奴。  優等生タイプ、これも恐らく上杉とは馴染まない。    その後、派手なグループから昼休み一緒にと誘われたが上杉は食堂に行くからと理由をつけてやんわりと断った。  ズルズル流れで行動すると後々面倒くさくなりそうな気がした。  食堂に行くはずもなく上杉は一人静かに過ごせる場所を探した。転校初日で場所も把握していないままに校内を歩いていると非常階段で一人ポツンと座っている生徒が目についた。 「武田くんやん」  先程の無愛想に消しゴムを受け取ったクラスメイトが昼休みに一人、目立たない場所で本を読んでいる。  上杉は首を傾げてしばらく眺めていたが思いたって武田の方に足を運んだ。  集中しているのか無視しているのか上杉に構わず武田はパラリと本をめくる。 「……なぁ、それ何読んでんの?」 「おわ!」  突然、声を掛けられて武田は跳ねるように驚いて声を上げた。  驚いたのは上杉もだった。  武田は目を丸くして上杉を見ると慌てパタンと本を閉じた。  無愛想だった武田の意外な表情を見て上杉は面白いと思って少し興味がわいた。
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