占いと豹

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占いと豹

占いは、人を幸せにも不幸にもする。 それを信じるか信じないかで、人は強くもなるし、弱くもなる。 言葉の影響力の強さに、私はこの身で受けるとは思わなかった。 「ミサカくんは、絶対に、人を不幸にするから!」 誰にも豹堂ミサカくんを取られないために吐いた占いの結果という名の嘘。 それを真に受けた本人は、人を避け、一人でいることを選んだ。 小学校の時に、吐いたその言葉は、ずっと彼の生涯を呪いのように追い続けるなんて思いたくなかった。 私は小学校高学年のときに占いに没頭していた。皆から占いをしてもらおうと注目されてとても良い気がした。占いは、ユミコ叔母さんに教えて貰った。 「いい?占いは、当たると嬉しいけれど、それで嘘を作り上げてはダメ。リカコはそういうことしないと思うけれど、それは占いでも何でもないただのでたらめよ」 ユミコ叔母さんの言葉がとても耳が痛かった。まさか自分が嘘を吐いてミサカくんの人生をぐちゃぐちゃにしたなんて口が裂けても彼女には言えなかった。なぜか運よくお父さんの転勤とおばあちゃんの死が重なって、中学校上がる前に地元を離れることになった。ミサカくんとも、地元の友達とも別れ、私の嘘が広まる前でよかったと思った。自分だけ逃げることになったが、私は内心ほっとしていた。ユミコ叔母さんとも離れることができて、私がやったことは消えてなくなるものだと思っていた。しかし、高校でまた地元に戻ってくることになった。 中学では占いは一切人前でするのは辞めた。これ以上、自分の言葉によって被害者を増やしたくなかったから、私は体を動かす陸上部へと入り、何も考えずに走り続けて、部活に明け暮れた中学時代を過ごした。 「あー、やっぱり彼に間違いない」 そして、今日は、高校の入学式。 その中で見つけた一際目立つ金髪の頭。 小学校の時は真っ黒で真面目な彼だったが、人を自分から遠ざけるために彼は金髪を選んだようだ。 金髪に長身で、額に小さな傷のある彼――豹堂ミサカくん。 ミサカくんとは別々の中学校に上がったのだが、まさか高校でまた再会するとは思わなかった。なんのために、町内で一番偏差値の低そうなここを選んだのか。彼は、頭がいいはずだからもっと上の高校へと目指すはずだと思い込んで選んだのがまずかった。 私はこそこそと彼にばれないように教室へと急いだが、運悪く目の前から来る人に気づかずにぶつかってしまった。 「わあ」 「ご、ごめんなさい」 鞄を抱えて勢いよく謝り、そそくさと逃げた。 その私の態度を見て、相手はあまりよく思わなかったようで文句を言う声が聞こえた。 「……花坂?」 それが彼に気づかれてしまったとは露知らず、私は自分のことだけでいっぱいいっぱいだった。 私は自分の教室に駆け込んで空いた席に着く。そこが自分の席とも確認するのも忘れ、とにかく一息つきたかった。 鞄を机に置いて顔を垂れる。ふうっと一つ息を吐いて間もなく教室に、眼鏡をした中年の男性教師が入ってきた。その後ろから見る金髪の頭に、思わず立ち上がる。 「なんだ、豹堂、私の後に入って来ては駄目ではないか」 「すみません」 「まあいい。早く座りなさい」 「はい」 そう言って教室を見渡すミサカくんと目が合う。どうやら同じクラスのようだ。 「おい、花坂。そこは、豹堂の席だ。お前はその隣」 「は、はい。すみません」 私はバタバタと隣の席へ移動する。 空いた席にミサカくんがやってくる。別れたはずの二人が、こうしてまた同じクラスで隣同士になるなんて、なんの運命か。今朝の占いでもそういえば「運命」のカードが出てきたことを思い出して、自分の占いが当たることを思い知った。
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