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わぁん!という叫び声で作品の中に頭まで浸っていた思考は現実に浮上せざるを得なくなった。
声の主は書斎に入って来ると私に抱きついて来た。
「どうしたの、舞香ちゃん?」
幼稚園が夏休み中の四歳の姪っ子の名を呼ぶと同時にまた、わぁん!と声を上げながら鼻を垂らした甥っ子も突進してきた。二歳になったばかりの彼は否応無くもう片方の手元に潜り込んで来た。
「壮ちゃんも?どうしたの?」
二人の可愛い子らは涙で真っ赤な頬を熟れさせながら同時に喋った。
「ママがお姉ちゃんに言いなさいって!」
――――またか、と思う。
二個下の妹、香織は二人の母親だ。
普段はふんわりとした女らしい雰囲気を纏う美人で、二十九歳だ。実家暮らし、彼氏無し、お洒落もほぼ部屋着のような自分と並ぶと姉妹だと言っても信じてもらえない程の見た目の違いがあった。
香織は幼少期からその美貌で異性の注目を浴びることが多く、本人もその為の努力を惜しまなかった。そして彼女の長年の夢であるお嫁さんを実現してくれる理想の旦那を二十四歳にしてゲット、けれど今は彼の浮気により実家に戻って来ている。彼は深く悔いているそうだが、香織はお仕置きの為に暫くは電話にもメールにも出ずにいる。こうと決めたら柔らかそうな外見に反して、誰より信念を曲げない頑固な妹だった。
まあ、自分の実家なのだからいるのは構わない。だが、自分の職業は作家であり、一行でも文字を綴らねば失職してしまう。それなのに、香織は実家に帰って来た気の緩みか家事では母を手伝うが、子供同士の喧嘩に一切、構おうとはせず自分の事をしている母親だった。何故だと理由を問うと、わかってないなあ、というように彼女はため息を吐いた。
「母親の私が言っても甘えて聞かないの。だから、お姉ちゃんみたいに親以外の人間が叱った方が二人とも言うことを聞くんだから」
ここでも信念を曲げない妹なのだ。ゆえに、玩具やお菓子の取り合いで毎日喧嘩が始まる二人が泣きついてくる度に執筆が中断されてしまう。
そんな日々がかれこれ、もうひと月程続いていて
私は正直参っていた。
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