高校生の夏休みはすげー儚い

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「うん。ゴールデンウイークの時に、ナナちゃんを襲おうとしたけど逆に恐ろしい目にあっちゃった子いたでしょう? あの子、厳密にいうとナナちゃんの親族の一人なんだって」 「同じサキュバスだからってことか」  赤池さんの親族は人間とサキュバス、サキュバスのハーフで構成されている。喫茶マウンテンで地獄のようなパスタを食べる羽目になったあの人が血気盛んだったのは、あの家でそのような教育を受けていたからだとか。 「偏向教育っていうやつだね。ナナちゃんのお母さんがしっかりした人だから、ナナちゃんはあの子みたいにならなかった」 「……そういえば、あの子ってどうしたんだ? 他の施設にでも行ったの?」  僕のデリカシー皆無な心の中の発言にブチギレたあの人は赤池さんによって引き取られた。てっきりあすなろの家で会えると思ったのだが、何か用事があったのかたまたま運が悪かったのか見てない。  僕がそう尋ねるとさやかさんの表情が曇る。どうやら僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったようだ。 「時雨くんは口が軽くないし、言いふらすこともしないから大丈夫だよね」 「うん……時々ひどい発言をするけど」  数分の間、さやかさんはどうしようかと自分の中で押し問答をした。その後、決意したかのようにうなだれた頭を上げる。 「これ……あまり話したくないけれど、あの子死んじゃったんだ」 「え……」  死んだという予想外の話に僕は何も言えないし、頭が真っ白になった。ようやくそれが冗談じゃない、現実のことだと受け入れたときに僕は尋ねた。 「その……どういうこと? 死んだってなんで? 死因は?」  闇が深い一族から逃れられたはずなのだが、どうして死んだことに?   順調に進んでいた物語が突然分断されたかのように理解できない。 「自殺だね。あすなろの家に日本庭園があるんだ。そこであの子、木に縄をかけて首をくくったんだ」 「……それを発見したのは?」 「宿直していた職員さん。朝の掃除をしていた際に発見したんだって。子供たちによって発見されてなくてよかったよ」  赤池さん、赤池さんと共に活動するヨシローさんにとって彼女の自殺は想像しないことだった。彼女の遺書はなく、どうして死んでしまったのかは不明。 「自殺する前ってどうだったの? 何かふさぎ込んでいたとかそういうのはなかった?」 「うん、なかったよ。普通に話をして過ごしたって、これといったことはなかった」  ただ、もしかしてと赤池さんとヨシローさんは考えていることがあるらしい。
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