第1話 猫だって嫉妬するにゃ!

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第1話 猫だって嫉妬するにゃ!

1a3524c0-e1cb-46cb-9a03-3ea6cab11026  ブラック企業に勤める俺の飼い主は帰りが遅い。だが帰宅すると、めちゃくちゃ俺を愛してくれる。  俺の体を撫でまわし頬ずりし「世界で一番大好き!」と、全裸になって抱きしめてくれるのだ。 「一緒にお風呂入る?」と甘く囁いてくるが、水嫌いなので風呂はノーセンキュ!。でも温かい風呂蓋の上には乗りたいにゃ。  美人の飼い主と一匹ぐらし、俺は猫の勝ち組生活を満喫していた。 ◇◇◇  ところが飼い主が、別の男(オスねこ)の臭いをさせて帰ってくるようになった。  「まさか浮気!?」   俺は飼い主の鞄を、名探偵のごとく調べ漁った。  すると、俺は絶対に食べない『マグロのちゅ~る』を発見したのだ!?。俺は肉食なのでチキンしか食べない…飼い主の浮気が確定した瞬間だ… 『俺というものがありながら、なぜにゃんだ!? 浮気相手は会社にいるのか?』  俺は潜入調査を決意した!。 ◇◇◇ 「飼い主の通勤鞄に入り、会社まで行くのにゃ!」  月曜の朝。俺は飼い主の通勤鞄から、ペットボトルとおにぎりを足で蹴って外へ出した。そして忍者のごとく空いたスペースに、液体のように体の形を変えて収まった。 『浮気されているかもしれない…、でも…俺の勘違いであって欲しい…』  俺はそんな淡い期待を持って潜入ミッションに挑んだ。確かめれば、きっと、この心の痛みはなくなるはずにゃ!  会社に着くと、隙を見て忍者のごとく飼い主の通勤鞄からにゃるんと這い出る。見つからないように距離を保ちながら、観葉植物の陰に隠れ飼い主の様子を伺う。  だがそこで俺は、驚愕の真実を見てしまった!?。飼い主が他の雄猫にちゅ~るをアーンしているではないか!? しかも複数の雄と同時プレイだ!。 『世界で一番大好き! あの言葉は偽物だったのか!?』  飼い主のビッチな浮気現場を目撃した俺の目から、涙がボロボロと溢れる。俺がショックで項垂れていると、会社の社員らしき人達に見つかってしまった。 「あら? 新しい猫がいるわよ!」 「いや~ん可愛いにゃんこちゃん! 食べちゃいたい~!」  俺に気づいた「美人のお姉さん」ではなく、「オネェ」さん達が俺を撫で始める。 「はぁ癒されるわ~、うちの会社は給料安くて糞で、社長死ね!って思うけど…。猫の癒しがあるから辞められないのよね~」  オネェさん達のゴツイ体と腕で抱き上げられ、身動きが取れなくなり青ざめジタジタする俺…。だがそんな俺の体を、容赦なくオネェ達が撫でくりまわす。 「ハァハァ、にゃんこちゃん可愛い~!」 「ちょっとぉ~あんた猫吸(ねこすい)いしすぎよ! 私にも吸わせなさいよ~!」 「ダメよぉ~私が先に見つけたのよ~!」  奪い合うようにして俺の腹に顔を埋め、スーハ―するオネェ達。オネェの唇がズゾゾッと物凄い音をたてて俺に密着する。まるで俺を飲むように激しく猫吸いされ、俺は思わず声がでそうになった。  ちなみに『猫吸い』とは、猫の体に顔を密着させて臭いをかいでスーハ―と息を吸ったり吐いたりする、猫を寵愛する行為のことだ。腹は猫にとって敏感な部分、俺は飼い主さんにしか、まだ体を許したことはない。 『ダメだ…そんなとこ撫でられたら、あっああ…助けて~俺の貞操がオネェに奪われる~!』  俺は必死に歯を食いしばって、声を堪えた。  『オネェの指でイカされてなるものか!? 俺は飼い主さん一筋一途にゃんだよ!』 「うにゃ、にゃにゃ…にゃん…」  だが複数のオネェ達に愛撫され、気持ちよさに俺はついに声をあげてしまった。  何か…失ってはいけない…とても大事な物を失った気がする…   「茶太郎(ちゃたろう)! どうして会社にいるの!?」  俺の声を聞いた飼い主が一目散に駆けつけてきた。 「にゃーん!にゃーん!にゃーんっ!」  会社にはたくさん猫がいるのに、俺の声にすぐ気づいてくれたのが嬉しい。俺はオネェ達の腕の中から、飼い主のほうへ助けを求めるように片手を伸ばす。 「すみません、この()はうちの子なんです!」 「なんだ、社長がまた新しい猫を連れてきたかと思ったわよ」  ぐったりした俺を、オネェ社員から奪い取り、大切そうに抱きしめてくれる飼い主。  その瞳に嫉妬が浮かんでいるのを見て、俺は少しだけ満足な気持ちになった。
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