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第8話 飼い主さんのところに帰りたいにゃ…②
庭付きの古い一軒家に、宗一郎と僕は一人と一匹で暮らしていた。だがその日は宗一郎の母が遊びに来ていた。
「宗一郎さん、この猫なつかなくて…ちっとも可愛くないわね!」
僕を見て顔を顰める宗一郎の母。
「母さん、そういうこと言わないでくれ…、猫にだって感情はあるんだメルが傷つくだろ」
「どうせ人間の言葉なんかわからないわよ」
「そんなことより宗一郎さん、見合い写真に目を通しておいてね!」
「もう見合いはいいですよ…諦めていますから…」
僕を抱っこして撫でる宗一郎。そんな僕を宗一郎の母は忌々しそうに睨む。
「宗一郎さんがお嫁さんを貰ったら、二世帯住宅に建て替えて犬を飼いましょうよ!」
「俺はメルだけいれば十分です、祖父が残したこの家が気に入っていますから」
宗一郎は几帳面だ。窓を開けても網戸はきっちりと閉める。だが、その日はなぜか窓が開け放たれていた。だから僕はつい好奇心で外に出てしまったのだ…。
少し散歩したら戻るつもりだった、ところがオネェの集団に声をかけられた。
「逃げないで~にゃんこちゃん! 私達ちっとも怖くないのよ~!」とハァハァ言いながら猛烈な勢いで追いかけてくるオネェたち。全速力で闇雲に走って逃げたら、迷子になったんだよね…。
『今頃心配してるだろうな…絶対に帰るから、僕がいない間に犬なんて飼わないでね宗一郎~!』
◇◇◇
数日後。家の中を探検していた僕は、知らない女性にいきなり首根っこを掴まれた!?。
「ちょっと南! 猫が私の部屋に入ってきたんだけど」
女性は南ちゃんの部屋のドアを開けると、僕をベットに放り投げた。
「メル君に乱暴しないで! 今度から気を付けるから…ごめん香」
どうやら南ちゃんは女友達とルームシェアしているようだ。僕は知らなかったので、部屋から出て隣の部屋にうっかり入ってしまったのだ…。
「この部屋出て行ってくれないかな南! 折半の家賃、今月分払ってないじゃん」
「仕事先が自粛休業でバイト代が入らないの…少しだけ待ってくれない?」
猫は人間の言葉を全部理解できるわけではない、でも快不快の感情はちゃんと感じ取る。僕は悪意の臭いを感じ取ってピンときた、この女は南ちゃんが何を言っても追い出す気だと…。
「今日から彼と暮らすから、猫を連れて出て行ってよ、彼は猫好きじゃないんだ」
「待ってよ香!? ここを借りるときの敷金礼金は私が払ったよね…」
「なら南は、今月分の家賃今すぐ払えるの?」
「それは…」
どうしよう…僕のせいで南ちゃんが大変なことになってる!?、目の前で繰り広げられる言い合いに、僕はオロオロした。
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