雪の龍神

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雪の龍神

気がついたら,雪の舞う銀世界の中に立っていた。 地面は,足跡の一つない,真っ白な雪に埋もれ,陽射しがその表面に反射し,ギラギラと光る。谷を囲んでいる山の頂点も,真っ白になっている。雪がちらちらと風の中で舞い回り,頬に当たる。目の前にある洞窟や樹々にも雪が積もり,氷柱が出来ている。 とても静かで,何処を見ても,人の気配がしない。人間の住まいらしいものも,何処にもない。眩しくて,白い景色が果てしなく広がっているだ。 突然,生き物が動き回る音がしたと思いきや,凛とした龍が洞窟の中から出て来て,興味深く風太を見つめた。 龍は,雪と同じ濁りのない白い色で,四本の足でのしのしと,風太に徐ろに近付いて行った。龍が歩くと、足元の雪が凍って,氷に変わるから,洞窟から細長い氷道が出来ていた。龍が歩き進むにつれて,氷道も少しずつ伸びていく。 風太が怖くなり,言った。 「止まれ!それ以上,近づくな!」 すると,龍が足を止め,鋭い目で風太の目を覗いた。 「龍を見るのは,初めてか?」 龍が深くて,威厳のある声で訊いた。 「はい。」 風太が龍と目を合わせずに,目を逸らして,つぶやいた。 龍は,自分は,龍神であることと,龍神はみんな,歳になると,自然の力を一つ選び,その力を司ることになっていることを説明した。 「じゃ,あなたは,どの力を選んだのですか?」 「私は,雪を降らせたり,ものを凍らせたりする力,冬の力を司る龍神だ。」 龍が,響くような声でそう言うと,地面に向かって,ゆっくりと,息を吐いた。すると,地面に積もっていた雪が舞い上がり,ぐるぐると回り始めた。いよいよ,雪が動きを止めると,花の形をした氷の彫刻になっていた。太陽の光が彫刻の表面に映り,キラキラと結晶のように光った。美しかった。 「どうして,冬を選んだのですか?」 風太は,龍神の披露する技に感心しながら,尋ねた。 「冬は,大事なことを私たちに教えるからである。 冬になると,動物が冬眠し,春になるまで眠る。植物は,葉や花びらを全部落とし,一度枯れて,じっと休む。 みんなは,早く自分の夢を叶えたいから,早く花を咲かせようと,焦る。でも,そうするためには,じっと力を蓄える時期も,必要なのだ。突き進む前に,まず,力をつけなくちゃならない。立ち止まる必要がある。 冬が全ての生き物に,立ち止まり、じっとする時間を与えるのだ。次に向かって,突き進めるように。 あなたは?何か夢があるのかい?」 龍神が颯太の目を真っ直ぐに見て,尋ねた。 龍神の質問にどう答えたら良いのか,風太には,よくわからなかった。自分の夢について,本気で考えたことがない。自分には,夢のようなものはないと思うが、そう言わない方がいいと思った。小さい頃は,よく空が飛んでみたいと思ったがあるが,それが夢の類に入るのかどうかすら,よくわからなかった。答えずに,質問をすることにした。 「凄い力ですね。龍神の力の中で,冬の力は一番強いですか?」 風太が訊いた。 「そのことはない。火の龍神が口を開けるだけで,どんな寒い冬でも,あっけなく終わってしまうのだから。」 龍神が首を横に振って,答えた。 雪の龍神がそう答えると,風太の目の前の景色が,ガラッと変わり始めた。銀世界が緑の世界に変わり,凛々とした冬の風が穏やかでぬるい風に変わった。
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