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会いたい。
ずっとそう思っていた。
けれど、歩いて行ける場所にいるわけではない君。
電車に乗れば会えるのか、飛行機に乗れば辿り着くのか、船であれば、もしかしたら宇宙船かな。
そう感じているほど、君は遠い。
スマホに保存されている、君の写真を見て気持ちを紛らわせ、それと同時に会いたい気持ちが募る。写真の中の君の頬に触れ、君の体温を知りたいと、胸を締め付ける。
ピロン、ピロン。
アラームが鳴る。
時間だ。
液晶画面の向こうに映る君に片手を挙げて、「はぁい」とあいさつ。
愛しさを隠しながら、爽やかさを纏う。
それでもやっぱり愛しさが胸に広がり、恥ずかしさに思わず視線をそらす。本当は見たいのに。見つめ続けたいのに、真っ直ぐに見つめられないわたしは、チキン。という単語が頭を過ぎる。今日の夕飯は鶏肉料理かな。なんてありきたりなことを考えながら、自分の意気地のなさに苦笑する。
会いたい。
そう口にしたい。
けれど、口にしてその先は。
自ら苦笑するほど意気地なしなわたしは、さらに意気地なしの想像しかできなくて、破りきれない殻の中でいつまでもバタバタしている雛鳥を想像し、今夜は鶏肉料理に卵もつけよう。と、会いたい君を液晶画面の向こう側に見ながら、愛しさ以外のことを考える。君は、鳥豚牛、どの肉料理が好きなのだろう。と、君とディナーを共にするシチュエーションを空想するもうまく出来ないのは、きっと経験が乏しいからだ。パターンを持ち合わせていないのだ。君はどうなのだろう。と、わたし以外の女性と時間を共にする君の姿を想像しては、ひとりで勝手に落ち込む。でも仕方がない。わたしは、液晶画面越しでしか君に会えなくて、君の側には触れられる距離で会える人がいる。それに、そんな距離で会えたとしても、「鳥豚牛肉、どれが好きですか?」なんて、聞けるかな。と、わたしはチキンです。と、思わず呟く。
液晶画面の向こうの君は、ずっと喋り続けている。そして数人での会話が繰り広げられていて、その中でわたしも一言二言加わる。
君に会いたい。
君に触れたい。
君を見つめ続けていたい。
鳥豚牛肉、どれか好きですか。
液晶画面に映らない所でペンを動かし、手元のノートに思いの丈を綴る。
口に出せないのに、その思いだけが膨れ上がるから。
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