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 その後、気づけば私と仲良くしてくれる、つまりは手を差し伸べてくれる他の優しい方のところにも、シンデレラの手紙が置かれていることが分かった。  綺麗な手紙に見惚れては、ちょっぴり羨ましくも感じた。私もそれくらい読めればなぁ、そしたら踊りやすくもなるのかなぁ……なんて、無い物ねだりの気持ちを宙ぶらりんにさせた。シンデレラに憧れていたのかも。  本当は私も、もっといっぱい読みたい。何度も読みたい。いろんな人のいろんな世界を、数多く見てみたい。でも私は、文字を皆のように読むことはできない。頑張ったって頑張ったって、どうにもならないやつ。  魚に地を歩けと言っても到底無理なのと同じで。頑張っても跳ねるぐらいしかできない。滑稽な姿になることは自明の理。  だから満潮時に砂浜の近くへ行って、ちょっと歩いた気分になってみる。そんなの歩いてないって、言われてしまうはずだけど。でもそれが精いっぱいみたいで……。  こんなあまりにも不器用すぎる自分が、酷くもどかしかった……だからこそ、シンデレラの作品はとても印象的なものとなっていた。目に見えない海を地上に広げ、今までにない視野で私に世界を体験させてくれたのだから……。  こうしてシンデレラは、仮面舞踏会で蹲る私に手を差し伸べて優しくエスコートしてくれただけでなく、未知の世界を体験させてくれた大きな存在となっていった。  それだけじゃない……シンデレラは師走以降も毎日、私の作品に暖かい手紙を置いていってくれた。なんて暖かいんだろうって……嬉しくて嬉しくて、ただ嬉しかった。この気持ちを、胸が弾むというのだろう。  でも、その手紙の持つ温もりが、どれだけ私の心を暖めていたのか……シンデレラは知る由も無い。  だって私は毎日毎日こっそり、その手紙を何度も読んでは、シンデレラがどんな人なんだろう、なんて考えていただけだった。私自身は不器用な手紙をしたためて、シンデレラの作品へそっと置いてくることだけしか、してこなかったのだから……当然だ。  あのときの私は、シンデレラはいつも舞踏会にいるものと勝手に思いこんでいた。でも、それが勘違いだと分かる日は思いの外早く、しかも突然に訪れてしまったのだ。  もし過去に行けるのなら、ちっぽけに蹲る私の手を無理やり引っ張ってシンデレラの前に立たせたい。不器用な言葉でも良いから、お礼を言わせるためにーー
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