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「さあどうぞ」 郷田に丁寧にお礼を言って、明はゆっくりと妻を振り返った。 「戻ったら、またいろいろ話し合おう」 「そうね。一からやり直しましょう」 「じゃあ」と、彼は優しげに微笑んだ。 「先に行って、待ってるよ」 「ええ、すぐに追いかけるわ」 あなたと、真希がいるところへ。 愛する家族が、待っている場所へ。 雲ひとつない、澄み切った空の下。 建物も、道路も、木も、草花も全くない。 一面に真綿のような地面が広がる、静かな静かな空間で、娘に会える喜びに胸を躍らせながら、栄子は愛する夫に、にっこりと微笑み返した。
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