68人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここにゆっくりと穴が空いてくるので、そこから地上へ降りてもらいます」
栄子はギュッと白い袖を掴んだ。
「ねえ、何とかならないの? もう夫と不毛な話し合いをするのは嫌だし、真希に腹を立ててあの子を傷つけるようなことは言いたくないの!」
郷田は心苦しそうに謝った。
「すみません。僕にはどうすることもできないんです」
「お願い、なんとかしてちょうだい!」
と、取りすがったとき。
「栄子」
低く厳しい声で呼ばれ、ビクッとした。
栄子はこの声には逆らえない。
いつも温和な夫が、芯から怒っている時に発する声だからだ。
「郷田さんを困らせてはダメだ」
親に叱られた子どものようにシュンとして、栄子は案内人から手を放した。
最初のコメントを投稿しよう!