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いつの間にできたのだろう。
郷田の足元に、人ひとりが通れるくらいの穴がぽっかりと空いていた。
中は真っ暗で、何も見えない。
「ここから行くのね」
「ええ」
不思議と恐怖は感じない。
「旦那さんが先に降りて、奥さんは、2時間ほど後に行くことになっています」
「ここを通ったら、意識が戻るの?」
「そうです」
「私たち、本当に帰れるのね」
「はい。早く回復して、元の生活が送れるようになるといいですね」
どうか僕の分まで、幸せになってくださいね──
郷田の思いが伝わってきたような気がして、栄子はしっかりと頷き返した。
「いつかあなたがここから私たちの様子を見た時に、私が怒り狂った顔をしていないことを祈るわ」
郷田はクスッと笑った。
「はい。ぜひ、楽しそうな笑顔を見せてくださいね」
そう言って、彼は明の背にそっと手を添えた。
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