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都内にある、大通りに面した新しく綺麗なカフェ。
アンティーク風の赤色の煉瓦調外壁に、紺と白のストライプのオーニング。
店のホームページに載っている外観の写真を見て、坂野栄子は嬉しそうに目を細めた。
「素敵なお店ね」
「そうでしょう? ナオに教えてもらったの。先月オープンしたばかりなんだって」
運転席に座る娘の真希が、バックミラー越しに目を合わせて声を弾ませる。
ナオとは真希の高校からの友人、奈緒美ちゃんのことだ。お洒落で流行に敏感な子だから、こういう新しい店にも詳しいのだろう。
「外にもテーブルがあるみたい。ねえ、パリのカフェみたいよ、明さん」
店の周りを囲むようにして植えられている草木の緑に、白い丸テーブルが映えている。
開放感のあるテラス席には柔らかな日差しが降り注ぎ、とても心地良さそうだ。
以前雑誌で見たパリの風景を思い出しながら、栄子は並んで後部座席に座る夫にスマートフォンの画面を差し向けた。
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