足あと

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ー森で人の足跡を見つけても絶対に追いかけてはいけないよ。 目の前の足跡に、父さんに言われた言葉を思い出した。 俺は大学で研究している昆虫を捕まえるために昔から遊びなれた山にいた。実家から5分のこの山は神社などがなく自然がほとんどそのまま残っていて昆虫採集に最適の場所なのだ。 道も整備されていないため植物を避けながら進むと急に人の足跡があった。よく見るとその足跡は靴を履いておらずはだしのようだった。 父の言葉を忘れた訳では無かった。しかし、それを言われたのは十数年も前だ。俺ももう大人になったし自分の事くらい守れる自信があった。それにこの先にはどんな人がいるのだろうと言う事が気になって仕方なかった。 足跡をたどりながらその主を想像する。子どもにしては大きいが子どものようにいろいろな場所に寄り道するように付いている足跡は遊びに来た小中学生のものでも仕方なくここで暮らす大人のものでもない気がする。 大学生になって女性と話す機会がほぼ無くなった俺は危険に対するものとは違う緊張を感じながら進んだ。 夢中になって足跡をたどっていると先から物音が聞こえた。音の方を向くと地面の近くで何かしていた人影がこちらを向いた。 「こんにちは。」 急に話しかけられ驚きながらもそちらに吸い込まれるように俺は近づいた。
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