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出会い
それはいつもと変わらない、ある日曜日の夕暮れ時だった。
38歳独身サラリーマンの俺は、一人暮らしの古い借家で缶ビールを飲みながらぼんやりしていた。するとほとんど使っていない納屋の方から、か細い声でピャーと鳴く声が聞こえてきた。
見に行くとまだ産まれて間もないような、小さくてヨレヨレの子猫がいた。母猫はどうしたことか、どこにも見当たらない。
今まで身近に猫がいなかったのでどうしたら良いか分からず、かといってこのままでは死んでしまいそうなので、とりあえず抱き上げて部屋に入れた。
たぶん腹を空かしているのだろう、なにか訴えかけるようにピャー、ピャーと懸命に鳴いている。……どうしよう。
こういう時はネットで検索。「子猫 えさ」ふむふむ、どうやら注射器みたいなもので猫ミルクをやるらしい。動画もざくざく、ネットは便利だ。
幸い近くにイオンがあるので、さっそくペット用品売場で猫ミルクと給餌用注射器(シリンジと言うらしい)を買い、子猫にやってみた。
小さいながらも、ぎゃうぎゃうとかじりつくように良く飲んだ。よほどお腹が空いていたんだろう。
満足するとそのまま、部屋の隅でスヤスヤと寝てしまった。安心してわたしも寝た。
翌朝起きると、子猫の姿はなかった。開けっ放しの窓の隙間から出ていったか。まあ、いいか。わたしはいつも通り仕事に出かけた。
夕刻に帰宅すると、なんと玄関の前に、あの子猫が座っている。待っていたのか? いやいや、偶然だろう。
それでも戸を開けた途端、子猫は自分からさっさと中に入っていってしまった。自分家かよ!
わたしはとりあえずミルクをやり、腹がふくれてウトウトしだした子猫を手のひらにのせて「ちっさいな〜」と眺めたり、ヒヨコみたいにホワホワで頼りない毛をちょっと撫でてみたりした。するとゴマ粒のようなものがぴょんと飛び出した。
あっ、これもしかしてノミ!
風呂に入れてやらねば。
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