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「無理をさせてマジですまなかった」
「いいえ。けど、あの……ブレスレットのパーツ、そろそろ返していただけませんか」
「ああ、あれね」
獅童さんはジーンズのポケットに手を突っ込んだ。そして、モリオンのパーツを取り出すと、ボクの目の前に出した。
「案外大丈夫そうだな、お前」
「へ?」
「倒れたのが芝居だったとは思わないが、そこまでダメージなかったんじゃないか? ん?」
覗き込まれ、目力に圧倒される。これはあれだ。蛇に睨まれたカエル。もちろんボクがカエル。身動きできるわけもなく、目の前に出されたモリオンを取り返す気力もない。
「気絶するまでの間、もし指輪から何かを読み取れたんなら教えてくれ。教えてくれたらこれは返す」
「え……」
「見たところ息は乱れてないし瞳の焦点も合っている。顔色もいいし呼吸も安定している。大したダメージなかった証拠だろ? な?」
ボクは黙って下を向いた。己の迂闊さを反省する。獅童さんの殊勝な姿に、思わず優越感が出たけれども、ボクの些末な優越感など問題にならないほど、獅童さんは観察力が鋭いらしい。
顔を上げると、獅童さんは手にしていたモリオン をシャツの胸ポケットにしまった。
「何を読み取った? わかったこととかあったのか」
ボクは大きく息を吐いた。これで、またどこかで噂に尾ひれが付いたら嫌だ、という気持ちが強い。小学校、中学校……ずっと、これが原因でいじめられたり、疎外されてきた。それ自体はボクにとって嫌な思い出ではないのだけれど、自分がいかに特殊かを思い知らされ、教師からくる連絡が母を悲しませ、嫌な思いをさせたことを思い出してしまう。
居心地の悪さ。感じ取ることに蓋をし、何も感じないように自分で制御する辛さ。そして、ときにはその制御を打ち破るほどの強さで雪崩れ込んでくる、ヒトの思いと、記憶。
「獅童さん」
ボクは意を決した。
見せてもらったあの映像を、この人は知る権利があるし、仮に「何も見ていない」と嘘を突き通してモリオンを返してもらっても、ボクの中にしこりが残る。
ならば、約束を交わしてもらえばそれでいい。
「これは、ボクの妄想かもしれません。なぜなら、「指輪がそれを見せた」という証拠は何一つないからです。実際に指輪が見せてくれたのかわからない。まあ、アクセスするのは石……ムーンストーン の方なんですけど。それを理解した上で、そして他言無用を約束してくださるなら、お話しします」
獅童さんの目がぎらりと光り、ボクはそれに圧倒される。本当にこの人は、まだ二十代前半、学生とは思えない迫力を持っているんだ。
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