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2. 拉致られた!
獅童さんが同じ大学なら、また会ってしまうだろう。
ボクは毎日戦々恐々としていたが、幸いなことに彼の姿を見かけることはなかった。その代わり、琥珀をひっ捕まえるとボクは彼を責めた。
なのに、琥珀はけろっとした顔で言った。
「獅童さん、すごい困ってるらしいからちょっとでも助けになれたらなぁって思ってさ。
水帆さんから晶のこと聞いたらしくて、すごい興味持ってたからちょうどいいや、って思ったんだよね」
「だからって勝手にそういうことすんなよ、すっげぇ怖かったんだぞ、ボクは」
「怖い? ああ、確かに獅童さん、迫力あるしね」
「迫力なんてもんじゃないよ」
琥珀の鈍感さが羨ましい。獅童さんから感じるあの圧は、「感じ取れる」人にとっては本当に、まるで目の前に巨大な一枚岩があるような感じなのだけど、それを知らなければ何もないのと同じなのだ……ボクもそんな感性が欲しかった。
「なんかさ、獅童さん、遺産相続に巻き込まれちゃって大変なんだってさ」
「遺産?」
「うん。半年くらい前に亡くなった遠縁の親戚が大金持ちで、獅童さん指定でこれこれの遺産を相続しなさいってメモがあったらしいんだよね。
けど、正式な書類じゃないからって親戚連中がとち狂ってるらしい」
「へぇ……そんなすごい遺産なの」
「三浦半島のほうにある別荘って言ってたかな。
なぜかその別荘まるごと獅童さん指定で相続らしくてさ。その別荘に金目のものが山ほどあるんじゃないかって親戚が虎視淡々と狙ってるんだって」
「それとあの指輪が、なんだっての」
「そこまでは聞いてないよ」
琥珀がボクを見る。そしてにっと口角を上げた。
「晶が気にするの、珍しいよね」
「そうかな」
「そうだよ。いつもなら他人にここまで興味を持たないじゃないか」
確かに、そうだ。
普段は極力人と関わらないよう、触れ合わないように気をつけている。ボクの、普通の人と違うところ。小さい頃から、ボクは人と距離を持っていた。それは母親に対しても同様で、ボクは「子どもらしくない子ども」だったらしい。
なのにどうして、獅童さんに対しては気になってしまうのか。いや、獅童さんに対してじゃない。きっと、あの指輪だ。指輪が気になるんだ。
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