亀田

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「おはようございます、亀田と申します。どうぞよろしくお願いします」  その日、中途採用の新人として入社してきた彼は、明るくさわやかに挨拶をした。事前にチェックした履歴書によると、既婚34歳の彼は東京の某美大卒、前職もグラフィックデザイナーで、デザイン事務所の即戦力としてはもってこいの人材のようだ。  ウチは所属デザイナー12名と、規模こそ大きくはないが、ここ鳥取ではそこそこ信頼を得ていくつかの顧客を抱える中堅デザイン事務所である。私は勤続15年目の40歳、一応デザイナーをまとめるチーフという肩書きが付いている。 「じゃあ山本君、あとは任せたよ」  そう言うと、社長はいつものようにフラリとどこかに出て行った。まったく自由な人だ。しかし地元に根付いたデザイン会社を、一人で興してここまで盛り立ててきたのだから、その力量たるや大したものである。 「チーフの山本です。よろしくお願いします」  私は簡単に自己紹介を済ますと、新人の亀田さんを、空けておいたデスクに案内した。 「これが亀田さんのマック。使いやすいように自由にいじってもらっていいですよ。何かあったら聞いてくださいね」 「はい、わかりました」  亀田さんはハキハキ返すとさすが経験者だけあって、慣れた様子で自分用のフォルダなどをサクサク設定しだした。デザイナーの必須アイテム、イラストレーター(注:デザイン用ソフトウェア)の扱いも手慣れたものである。
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