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 ぼっち弁当を食べ終えた、高校の中庭で。ふと見ると、隣の白いベンチに赤い汚れがついていた。  あ、血だ。  って、すぐに分かった。うちには姉ちゃんがいて、ときどき同じような感じでトイレや座布団に血がついてるから。  オレは反射的に、今席を立った女子二人の背中を目で追った。右にいる子のスカートには、グレーの布地が黒く染まった部分が、やっぱりある。 (どうしよ……)  たぶん隣のクラス、一年B組の女子だ。顔は分かるけど、話したことはない。  迷って何もできないオレの前を横切り、ジャージ姿の男子がその背中に声をかけた。ラインが青だから、たぶん二年生。振り向いた二人は何か言われて同時に「あっ」という顔をして、首をひねって後ろを見た。  顔を歪めたその子の前で、先輩がいきなり上着を脱いだ。お腹のところで手をぐるぐる回し、それを腰に巻くようジェスチャーで示す。半袖になった先輩は押し付けるように女子にジャージを持たせると、グラウンドの方へ颯爽と走り去った。 (すげぇなぁ……)  正直言って、見た目は別にカッコいい先輩じゃない。顔はほとんどゴリラで、背も低くて。だけど、スカートの染みを隠せるように知らない後輩にジャージを貸してあげるなんて、なかなかできることじゃない。少なくとも、オレにはできない。  吐いた息も凍るような真冬日なのに、吹きっさらしの中庭には十人くらいの生徒がいる。その真ん中で注目を浴びた女子はうつむいてジャージを腰に巻き、友達と早足で校舎に入って行った。
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