08

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 スティンリアの火侍就任に必要な手続きが全て終了した頃、天帝ポルトリテシモは漸くその仏頂面を引き提げて火神の許にやってきた。  また、見るからに機嫌が悪そうである。最近こんな顔しか見ていない。嘘でもたまには笑えばよいものを。 「私に文句付けないでよ。全部が全部、望み通りって訳でもないんだから」  天帝はやや言葉に詰まったようであったが、その後深々と溜息を吐いた。 「分かっている。だが、これからが大変だぞ。また前任の火侍の様に――」 「覚悟はしてる。火人族や火精達のこともちゃんとする。責任は取るわ。スティンリアをオイロセの二の舞にはしない。折角生かした命なのだから」  火神の言葉に強い意思を感じ取った天帝は、少々安堵した。  実は先日、木神からの要望もあって火神には内密に火人族の女王と火精の王を呼び出し、脅しも交えて厳しく叱り付けておいたのだ。顔面を蒼白にし、がたがたと震える彼等の様子から見て、再犯の可能性は低いとは思うが――。  しかし、今の彼女を見れば全ては唯の杞憂だと感じられた。 「なら、私から言うことは何もないよ。……またな」  天帝はほんの少し――彼が火神の前でその様な表情になるのは珍しいのだが――笑ってみせた。 「ええ、また……」  火神は一瞬拍子抜けさせられたが、やがて穏やかな気持ちで踵を返した天帝を見送った。 (彼と、「また」なんて挨拶を交わせる時が戻ってくるなんてね。それも何時まで続くかは分からないのだけれど)  天帝ポルトリテシモもまた、嘗ては風神アエタと同様に兄妹の様に育った間柄だった。しかし風神とは異なり、何時の間にか両者の間には溝ができ、顔を合わす度ぶつかり合うようになっていた。  ともあれ天帝を見送った後、火神は旅の準備をして待機していたスティンリアの許へと向かった。  体調が改善してから、彼はずっと物問いたげな顔で火神を見詰めてくる。この時もまたそうだった。しかし、実際に彼が胸の内を明かすことは一度もなかった。  ほんの少し胸の痛みを感じながらも火神はスティンリアの許へ駆け寄り、彼が連れてきた騎獣に乗る。 「さあ、共に帰りましょう。私の領地――火界の居城へ」  先導する火神に付き従って、火侍スティンリアもまた騎獣に鞭を当てた。
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