検視官の嗅覚

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検視官の嗅覚

「どうもクサいですよね。落ち着きすぎている」  遺体を預かり署に帰る道すがら、木羽はぽそり、と(すずし)に話しかけた。   殺人事件を担当して4年、検視官に任じられたばかりだが、その手の嗅覚はそれなりに、鍛えられている。  木羽から見れば、鴇島はかなり怪しかった。 「善良な一般人なら、人が倒れていたら触るものじゃないですか。なんとか助けようとして」 「まぁ…… 指一本触れずに救急車を呼ぶのは、珍しいかもしれませんね」  曖昧にうなずいたものの、監察医の(すずし)にとっては、範疇外の話しだった。  --また言い出したよこの人。ハズレばかりなら無視できるのに、当たる時もあるから面倒だわ。  そんな涼の心の呟きには全く気づかず、木羽は考える時の癖で、人差し指でこめかみを叩いた。 「目立った外傷はなかったが…… 獣医なら毒物も手に入れやすいですよね、立場的に」 「まぁ、クロかシロかは、死体(まんじゅう)調べないことには何とも言えませんが」 「よし、なる早で徹底的に調べましょう」 「今日、結婚記念日なんですけど」 「それは、おめでとうございます」  ーー 捜査の嗅覚を、人間関係にも使えばいいのに。  全く分かっていない顔で祝われ、涼は 「どうも」 とボソボソ礼を言ったのだった。  結婚記念日を返上しての、検死の結果。  女性 …… 鴇島 花恋(ときしま かれん) の死因は、意外なほど早くに判明した。
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