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飼い犬と第一発見者
35歳女性、自宅で不審死。
知らせを受けて監察医の涼、鑑識係のメンバーと共に現場に到着した検視官の木羽を迎えたのは、犬と第一発見者の男だった。
男の名は、鴇島英司。遺体となった女性とは、親しい従兄弟で獣医師だという。少し癖のある褐色の髪、通った鼻筋と色白の肌は、白人の血を思わせた。
「彼の様子を見に来たんです。退院したばかりなので」
犬を人間のように呼ぶのが少し妙だったが、職業柄なのかもしれない。
あるいは、この犬を単なる動物扱いするのが憚られるのか……
確かに、美しい犬である。ツヤのある短毛に覆われた大きな体躯はしなやかに引き締まり、垂れた耳と黒い瞳が、いかにも賢そうだ。
忠誠心が強いのだろう、倒れたままの飼い主を守るように傍に侍り、近づくとウウ、と唸る。
「そしたら、庭の方から彼が駆けてきて服の裾を引っ張るので、只事でない、と慌てて中に入ったんです」
その事実を示すように、庭への出入用の大きな窓の側には男性用の靴が揃えて置かれていた。
そこから、リビングのフローリングの上には乾いた犬の足あとが続いている。
昼前までの雨で地面がぬかるんでいたために付いたものだろう。足あとは、女性の方へと一直線に向かった後、隣の部屋へと続き、またこちらに…… 行ったり来たりを繰り返していたようだ。
「すぐに救急車を呼びました。その時点で息はしておらず、呼びかけても反応はありませんでした」
「遺体には手を触れなかったのですね?」
「はい」
鴇島は、木羽たちに向かって警戒感を剥き出しにする犬を宥めながら、木羽に向かってうなずいてみせた。
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