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彼女の死因
「鴇島花恋、女性35歳。5月2日、自宅にて死亡。第一発見者は従兄弟の鴇島英司。
死亡推定時刻は同日午後2時前。午後2時30分、救急隊員により死亡が確認されております。で、推定される死因ですが……」
「続けてください」
言い淀む涼を、木羽はうながした。
今は検死結果の整理と確認のための、会議中である。
「…… 膣内に飼い犬のものと一致する精液が大量に残されていました。他に原因となる外傷、内疾患などがないことから、死因は飼い犬の精液によるアナフィラキシーショックと考えられます。
膣の状態から、彼女は継続的に犬とセックスを行っていたと推測されます。潜在的にあった動物アレルギーが出たか、あるいはペニシリン・アレルギーのいずれかでしょう」
「可能性としてはペニシリンの方が高いと思われます」
花恋はペニシリン・アレルギーだった。
そして飼い犬は、手術跡の化膿予防のために、退院後も継続してペニシリン系薬剤を摂取していた。それがセックスにより、膣から吸収されてショックを引き起こした可能性は、充分にあった。
「やっぱりクサいですよね」
木羽の言に涼はタメイキをついた。
「まさか獣医師…… 鴇島英司が彼女を殺害するために、飼い犬に薬を処方していたとでも?」
「無論、化膿止めは当然ですが、けど怪しい。なぜ注意しなかったのか……」
「普通、考えませんよ」
カミングアウトでもされない限り、飼い主と犬のセックスにまで考慮する獣医師がいるとは思えない。
しかし木羽は、頑固に言い張った。
「そもそも、あの犬の足あとからして、おかしかったんですよ。あれを検証しておかなかったのは、失敗だったかもしれません」
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