彼女の死因

1/1
前へ
/10ページ
次へ

彼女の死因

鴇島花恋(ときしま かれん)、女性35歳。5月2日、自宅にて死亡。第一発見者は従兄弟の鴇島英司(ときしま えいじ)。  死亡推定時刻は同日午後2時前。午後2時30分、救急隊員により死亡が確認されております。で、推定される死因ですが……」 「続けてください」   言い淀む涼を、木羽はうながした。  今は検死結果の整理と確認のための、会議中である。 「…… 膣内に飼い犬のものと一致する精液が大量に残されていました。他に原因となる外傷、内疾患などがないことから、死因はによるアナフィラキシーショックと考えられます。  膣の状態から、彼女は継続的に犬とセックスを行っていたと推測されます。潜在的にあった動物アレルギーが出たか、あるいはペニシリン・アレルギーのいずれかでしょう」 「可能性としてはペニシリンの方が高いと思われます」  花恋はペニシリン・アレルギーだった。  そして飼い犬は、手術跡の化膿予防のために、退院後も継続してペニシリン系薬剤(アキモシシリン)を摂取していた。それがセックスにより、膣から吸収されてショックを引き起こした可能性は、充分にあった。 「やっぱりクサいですよね」  木羽の言に(すずし)はタメイキをついた。 「まさか獣医師…… 鴇島英司が彼女を殺害するために、飼い犬に薬を処方していたとでも?」 「無論、化膿止めは当然ですが、けど怪しい。なぜ注意しなかったのか……」 「普通、考えませんよ」  カミングアウトでもされない限り、飼い主と犬のセックスにまで考慮する獣医師がいるとは思えない。  しかし木羽は、頑固に言い張った。 「そもそも、あの犬の足あとからして、おかしかったんですよ。あれを検証しておかなかったのは、失敗だったかもしれません」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加