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第1話
アタシはアリョーナ…
ハバロフスク中心部の女子大に通う19歳の少女です。
大学卒業後、なりたい職業は学校の先生です。
アタシの家族は、ハバロフスク市内で貿易商を営む父と母と一番上の兄(30歳)と2番目の兄(25歳)と次兄の兄嫁さん(34歳)の6人家族です。
一番上の兄は、父が経営している貿易商を手伝っている。
だけど、嫁さんはいません。
2番目の兄は、職場恋愛で知り合ったお嫁さんと結婚して幸せイッパイです。
時は、2011年5月9日頃であった。
2か月前、日本で巨大津波を伴った大規模地震(東日本大震災)の影響で、父が取引していた東北地方の会社が壊滅的な被害を受けた。
顧客の売掛金の回収が困難な状況におちいったので、苦しい生活を強いられている。
そうした中で、わが家では頭の痛い問題を抱えていた。
一番上の兄にお嫁さんがいないので、父は毎度のように問い詰めてばかりいた。
シーンは、わが家の朝の食卓にて…
テーブルの上には、ライ麦のパンとコンソメのポトフとハムエッグとグリーンサラダが置かれている。
次兄の兄嫁さんは、マグカップにひとつずつチャイ(紅茶)を注ぐ。
父は、多少あつかましい声で一番上の兄に言うた。
「ヒメネンコ、お前はいつになったら嫁さんをもらうのだ!?」
「何だよオヤジィ…またその話かよぉ…」
父の言葉に対して、一番上の兄もまた多少あつかましい声で父に言い返した。
父は、読みかけのロシア語の新聞をバサッとひざの上にたたきつけながら一番上の兄を怒鳴りつけた。
「ヒメネンコは、そのうち…とばかり言ってるけど、何年間宙ぶらりんのままでいるつもりだ!?どうして、ヒメロフ(アリョーナの2番目の兄)のように職場恋愛で知り合った…と言う形がないのかな…」
「無理なことを言うなよ!!ヒメロフが結婚できたからオレも結婚せえなんて、ムリだよ!!」
一番上の兄と父が大ゲンカになった。
紫色のTシャツにボブソンのジーンズ姿のアタシはのみかけのチャイをゴクゴクとのんだ後『ごちそうさまでした。』と言うて、カバンを持って席を立った。
アタシは、足早に大学へ向かった。
ネイビーの背広姿の2番目の兄も『仕事に行ってくる。』と言うて、カバンを持って席を立った。
そして、足早に会社へ出勤した。
アタシんちは、毎朝のように一番上の兄の結婚問題のことで食卓の雰囲気がよどむ…
ところ変わって、市内カールコルスク通りにある女子大にて…
時は、昼の2時頃のことであった。
アタシは、足早に大学の正門を出た。
この時、市内にある医科大学の4回生のカレ・タメルランと出会った。
「アリョーナ。」
「ハーイ、タメルラン。」
「ゼミ終わった?」
「うん、今終わったところよ。ねえ、どこに行く?」
「そうだなァ…どこに行こうかな?」
「タメルランに任せるわ。」
アタシは、タメルランと一緒に腕を組んでハバロフスク市内を歩いて、デートをした。
アタシとタメルランが出会ったのは、1年前(2010年)の夏だった。
ハバロフスク市内の大学4校が合同で恋人のいない男女20人を集めて、市内コムソモール通りにあるサッポロ(北海道料理のレストラン)で開かれた合コンがあった。
ふたりは、その時に出会った。
みんなでワイワイとおしゃべりをしながら石狩鍋を食べていた時、タメルランがアタシに声をかけた。
最初は軽いおしゃべりから入った。
それから数時間後、アタシはタメルランに気に入られて、お付き合いを始めた。
タメルランは、プーチンカ(ウォッカ・アルコール度40度)をのんで、すっかり上機嫌になっていた。
カレは、3回目の「ダバーイ!!」(乾杯)を言うて、3杯目のウォッカをのんだ。
3杯目のウォッカをストレートで一気にのみほして、すっかり上機嫌になったタメルランは、アタシの顔を見て『アリョーナ…ぼくとお付き合いをしてほしい。』と言うた。
アタシは、タメルランの勢いに負けた。
そこからふたりのお付き合いが始まった。
2011年の2月、アタシとタメルランは密かに結婚を意識し始めた。
結婚に向けて、アレコレと準備していたけど、大きなかべにぶち当たった。
タメルランは北コーカサスのチェチェン自治共和国の生まれである。
カレの家は、アタシとの結婚に猛反対を唱えていた。
アタシは、タメルランの家ご家族から結婚を反対されてもこの愛を貫いて(つらぬいて)行こうと固く決心した。
しかし、2011年6月頃にわが家で大事件が発生した。
それが原因で、ふたりは別れた。
一番上の兄が、顧客からの預り金3000万ルーブルを勝手に流用して、スッテンテンにしたあげくに、行方不明になった。
嫁さんが来てくれないさみしさからサウナ(ここでは、ロシアの風俗店のことを言っている)に出入りしているところをウラジオストク(またはウラジボストーク)にいる父の知り合いの人に目撃された。
一番上の兄は、15日前にウラジオストク市内にあるサウナ店の女のコに大金を貢いだ。
顧客から預かった3000万ルーブルを返済しなくてならない…
父は、金銭の工面に困っていた。
6月13日の夕食のことであった。
父は、つらそうな声で『アリョーナ、お見合いの話を入れておいたから…』とアタシに言うた。
アタシは、頭が真っ白になった。
アタシのお見合い相手は、ウラジオストク市内にある海運会社の常務の御曹司(おんぞうし)のヤホースキーさんであった。
ヤホースキーさんのお父さまは、これまで大切にしていた日本の陶器などの骨董品や株券やゴールドプレートなどを全部売却して4000万ルーブルを受け取ったあと、うちに送金してくださった。
4000万ルーブルを与える条件として、アタシが女子大を退学して、ヤホースキーさんと結婚をすると言うことであった。
それを聞いたアタシは、ひどく戸惑った。
それじゃあ…
アタシは、今まで何のために大学に行ったのよ…
アタシが、女子大を卒業するまでどうして待てないの…
困り果てたアタシは、父に対して『アタシが大学を卒業するまで結婚を待ってほしい。』と申し出た。
しかし、父は口をへの字に曲げていやそうな顔でアタシに言うた。
「ヤホースキーさんの家は、過去にトラブルが発生した時に金銭的な援助をしたのだよ…他にも、ヤホースキーさんの家に恩義があるのだよぅ…」
父は繰り返してそのように言うた。
アタシのことは、どうでもいいのね…
その一方で、アタシとタメルランが付き合っていることを家族に言えなかった。
ヤホースキーさんは、これまでにお見合いを100回以上も断られてばかりいた。
気持ちがヒヘイしているので、アタシと早く結婚をしたいと言うた。
ヤホースキーさんが『ぼくは39歳でもうあとがないのだよぅ…』と言うて焦っていた。
アタシは、そんなメメシイ性格のヤホースキーさんをべっ視した。
6月18日に、アタシは家族と一緒にジェルジンスカヴァ通りにあるスニェジンカ(高級レストラン)へ行った。
アタシたち家族は、ランチを摂りながらヤホースキーさんの家のひとたちと楽しくおしゃべりをしていた。
しかし、ヤホースキーさんはつらそうな表情を浮かべていた。
仲人さんの奥さまは、ヤホースキーさんを傷つけないようにやさしい声で言うた。
「ヤホースキーさん、どうしたのかな?せっかくのお見合いだから、アリョーナさんとお話をしてみたら?」
「えっ?」
仲人さんの奥さまにやさしい声で言われたヤホースキーさんは、ますます困惑ぎみの声で言うた。
「あのう…いっ、一体何からお話をすればよろしいのでしょうか?」
「そうね…例えば、趣味の話とか…あと、ヤホースキーさんがアリョーナさんに聞きたいこととか…いっぱいあるでしょ…」
(チッ…)
ヤホースキーさんは、チッと舌打ちしたあと多少怒りぎみの口調で仲人さんの奥さまに凄んだ。
「なっ、何なのですか一体!!ぼくはお見合いを頼んだ覚えはないのに、なんで勝手なことをしたのだ!!」
ヤホースキーさんの言葉を聞いたアタシは、席をけとばして立ち上がったあと、外へ出て行った。
お見合いは、ヤホースキーさんが仲人さん夫妻に暴言をはいたことが原因でめちゃめちゃに壊れた。
しかし、ヤホースキーさんの両親はアタシの家に電話をして『息子を30代のうちに結婚をさせてあげたい。』とアタシの父に申し出た。
父は、ヤホースキーさんの両親の要求を受け入れた。
そして、双方の両親が2011年7月23日に挙式披露宴の予約を結婚式場に入れた。
アタシの両親は、大学を中退する手続きを取ったので、アタシは大学に行けなくなった。
両親だけではなく次兄の兄嫁さんも『アリョーナさんによく似合うウェディングドレスを見つけてあげるから…』と言うて張り切っていた。
ヤホースキーさんのおばさんもすっかりその気になって、ヤホースキーさんにこまごまと世話をやいた。
同じ頃、タメルランもグロズヌイ(チェチェン共和国の首都)にいる父親から『母親が大病で倒れたから帰って来い!!』と言う知らせを受けたので、大学中退を余儀なくされた。
タメルランは、父親からの知らせを聞いて大学をやめてグロズヌイに帰ろうかどうしようかと迷った。
タメルランは、大学を卒業したらすぐにアタシと結婚すると決意した。
それなのに、実家からの知らせを聞いたときには気持ちが動揺した。
2011年7月22日の午後であった。
挙式披露宴にそなえて、ヤホースキーさんの家の親族のみなさまがウラジオストクから飛行機に乗って、ハバロフスクへやって来た。
ヤホースキーさんの家の親族のみなさまは、宿泊先のホテルに着いた後、個々の部屋でリラックスをして過ごした。
その日の夜のことであった。
アタシは、タメルランとふたりでヂモーナ公園にて密会した。
アタシは、白に黒のよこしまのキャミソールの上から白のブラウスをはおりまして、下はネイビーのデニムのスカートをはいている。
タメルランはアタシに、グロズヌイに帰ることを伝えた。
「アリョーナ…オレ…グロズヌイに帰ることにしたよ…」
「タメルランも…大学をやめるの?」
「ああ…おふくろが…大病で倒れたのだよ…医者になろうと今日までがんばったけど…オヤジが大学をあきらめて、家に帰れ…グロズヌイで就職をしろと…うちには…おさないきょうだいがいるのだよ…オヤジが働けないから、オレが働かなきゃならないんだよ…明日…列車に乗って帰る…元気でな…オレよりもいい男と幸せになれよ…」
タメルランは、アタシに別れを言うたあと、公園をあとにした。
タメルランと別れたアタシは、公園をあとにした。
その後、アタシは事件に巻き込まれた。
アタシは、マスコーフスカヤ通りから少し道を外れた露地を歩いていた。
その時にアタシは、派手なシャツを着たガラの悪い男ふたりに声をかけられた。
アタシは、必死になって抵抗をした。
しかし、ふたりの男はアタシをはがいじめにして、ひとけのないところへ連れて行った。
「ちょっと…何をするのよ!!離して!!離して!!」
ガラの悪い男ふたりに連れて行かれたアタシは、そこで行方がわからなくなった。
それから三時間後…
アタシは、ふたりの男に力任せに押さえつけられて、さるぐつわを口にかまされた。
ふたりの男は、ボロボロになるまでアタシの身体を犯した。
アタシは、カレと別れただけではなく親が決めたお見合い相手との結婚でギスギスしているそのまた上に、ゆきずりの男ふたりに身体を犯されて、大きく傷ついた。
どうして…
どうして、こんなことになったの…
くやしい…
恥ずかしい…
アタシは、そんな気持ちを抱えたまま7月23日の挙式披露宴の日を迎えた。
挙式は、シベリア鉄道のハバロフスク駅の近くにある教会で挙行される。
ヤホースキーさんの親族のみなさまは、チャペルにてにこやかな顔で挙式が始まるのを待っていた。
新婦の控え室にて…
ウェディングドレス姿のアタシは、外に出るのがイヤなので、うつになっていた。
そんな時に、次兄の兄嫁さんがやって来た。
「アリョーナさん…みんな待っているわよ。」
「アタシ…行きたくない…結婚式…いや。」
「そんなことを言わないでよ…ヤホースキーさんの親族のみなさまは、はるばるウラジオストクからお越しになられたのよ…ヤホースキーさんも…」
次兄の兄嫁さんの言葉に、アタシはブチ切れた。
「ヤホースキーさんのことは出さないでよ!!」
「どうしたのよ…あっ、アリョーナさん…」
次兄の兄嫁さんは、アタシの右のくびすじに男の歯形がついていたのをみてビックリした。
「アリョーナさん…右のくびすじについているその傷…どうしたのよ…アリョーナさん…」
見られたくない傷を次兄の兄嫁さんに見られたアタシは、泣き出した。
「イヤ…見ないで!!…見ないで!!」
大パニックを起こしたアタシは、教会から飛び出した。
教会から飛び出したアタシは、いちもくさんに帰宅した。
その後、逃げる準備を始めた。
ボストンバックに着替えと当面生きて行くための品物を詰め込んで、赤茶色のバッグには当面生きて行くために必要なお金とギャラクシー(スマホ)と貴重品と金品を入れた。
荷造りを終えたアタシは、すばやく家を飛び出した。
そして、足早にシベリア鉄道のハバロフスク駅へ向かった。
ハバロフスク駅に着いたアタシは、ボストンバックと赤茶色のバッグを持ってモスクワ行きのシベリア鉄道の長距離列車に乗りこんだ。
アタシは、幸せさがしの旅に出ることを決意した。
アタシがハバロフスクを飛び出す準備をしている時であった。
教会では、結婚式が中止になったので大騒ぎになっていた。
ヤホースキーさんの家の出席者のみなさまは、スゴスゴとウラジオストクへ帰った。
アタシがいない新婦の控え室にて…
控え室には、ヤホースキーさんの両親とアタシの両親と2番目の兄と兄嫁さんがいた。
アタシが教会から逃げ出したので、ヤホースキーさんのお母さまが激怒した。
「アタシは、息子とアリョーナさんの結婚は大反対だったのよ!!なんなのよ一体もう!!」
「やめろよ。」
「止めないで!!この際だから言わせてもらうけれど…兄嫁さんがアリョーナさんの右のくびすじに男の歯形がついていたことを聞いたけど…息子以外に好きな男の人がいたなんて…どう言うことよ!?」
ヤホースキーさんのお母さまの言葉に対して、次兄の兄嫁さんは『何かの間違いです!!アリョーナさんには、ヤホースキーさん以外には好きな男の人はいないのです!!』とハンロンした。
しかし、ヤホースキーさんのお母さまは激怒していたので、おちついて話をすることができなかった。
ヤホースキーさんの家はアタシの家に対して『4000万ルーブルを返してください!!』と言われたので、4000万ルーブルを返すことになった。
お見合いを反古(ホゴ)にしたアタシは、家からカンドウされた。
カンドウされたアタシは、自分の力で生きて行くことになった。
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