白い少女

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部屋を出ると自分は息を整え深呼吸した。外の空気を吸うとさっきまでの体の火照りや興奮も収まり、下半身の膨張も嘘のように静まっていた。廊下の向かいに丁度、寝室らしき部屋のドアがあった。 その部屋に、果たして木ノ崎はいた。 ジャージ姿で、まるでこの家の居候のように静かに座っている。 章子の部屋の向かいにこの寝室があるため、彼はそこで寝泊まりをしているようだった。空き缶やコンビニの弁当箱の入ったビニールがあちこちに転がっている。 「どうして、ここに・・・・」 自分の顔を見るなり、驚いた表情で木ノ崎は言った。 「久しぶりだな。なんで家に帰ってないんだ?」 木ノ崎はバツの悪そうにボリボリと顔をかくとポツリと言った。 「いちいち家に帰るのが面倒になって……」 木ノ崎は伸びたあごひげを擦った。 「まるでこの家の書生みたいな生活だな」 自分が皮肉を込めて言うと、彼は神妙な顔になった。 「実は・・・離れられないんだよ」 彼は言った。 「この家から?そんなに居心地がいいのかよ」 「いやちがう、彼女からだよ」 急に彼は、何かを訴えるような目になる。 自分は彼の言葉に耳を疑った。 彼女って、あの中学生の教え子の事か。それはまずい。 「おい、今のは聞かなかったことにするぜ。いくらなんでも、教え子に手を出すのはどうかしてる、しかも相手は子供じゃないか」 「ああ・・それはそうなんだが」 しかし木ノ崎は、焦点の定まらない目のまま項垂れると、そのまま押し黙ってしまった。 「しっかりしてくれよ、とにかくみんな心配してるから連絡だけは入れてくれ。実家じゃお前の行方を探してるようだぞ。あと、大学に来ないのは不味いだろ、彼女も泣いてたぞ。ところで、試験はちゃんと受けたのか?」 木ノ崎は項垂れたままだった。 「・・・実家とか試験とか、ここにいるとそんな世間の些細ごとなど、どうでもよくなり、まともに考えられなくなるんだよ。もう俺はここから離れられない・・・」 彼は頭を抱えながら言った。思いのほか彼が思いつめているので、自分は言葉を選んで言った。 「と、とにかく一度、家に帰ろう。それから今後のことを考えよう。第一、いまみたいに教え子の家に泊まり込んでいるなんて聞こえが悪いぞ。あと、携帯の電源はいつでも入れておいて、何かあったら電話連絡すること、わかったね」 自分は木ノ下にそれだけを約束させた。しかし結局彼はこの日、荷物が沢山あるからと言って、自分と一緒にこの邸宅を出なかった。
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