1742人が本棚に入れています
本棚に追加
《今日、終業後に少しお時間をいただけないでしょうか。》
枡川さんと予定を決めた後、私はずっと連絡を出来ずにいた南雲さんへ、メッセージを送っていた。
「…突然、すみません。」
「ううん、全然。この後、枡川と約束してんだって?」
「あ、はい。ご存知でしたか。」
「瀬尾が、枡川に飲みにいくのドタキャンされたってぼやいてたから。」
……それは、知らなかった。
枡川さん、先約があったなら別の日でも良かったのに。
瀬尾さんに申し訳ないな、とは思いながらも、リーフレットをそこまで楽しみにしていてくれたのかと顔がほころぶ。
そしてそんな後輩達の話を楽しそうに語る南雲さんは、荷物も何も持たず、手ぶらの状態だった。
「南雲さん、随分身軽ですね…?」
「え?……ああ、違うよ。荷物はまだフロアにある。
この後もまだちょっと仕事残ってるから。」
「そうだったんですか…?
そんなお忙しい時にわざわざお呼び立てして、ごめんなさい。」
瞳を細めて微笑む彼に謝罪しても、彼は気にして無いと首を横に振る。
そして。
「……保城さんの話は、多分そんな良い話じゃないだろうから、今日は多めに残業でもしようかなと思って。」
そのままこちらへ届いた言葉に、私は彼と同じようには、微笑みは返せない。
お気に入りのハンドバッグを握る手に、力が入る。
最初のコメントを投稿しよう!