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「南雲さん。
私は南雲さんと2人でご飯に行ったりは、もう出来ません。」
真っ直ぐ向き合って告げた言葉が、震えてしまう。
「……この間、俺が誘った時。
まだ保城さんの中で迷いがあった気がしたから。俺は入る隙あるかなと思ってたけど。
もう、可能性はゼロ?」
"保城さん。
その迷いに、まだ甘えて良い?"
"どうしようかなって悩んでくれる余地があるなら、俺はまだ、引きたくは無い。"
切なさを表情に浮かべる彼を見ると、胸はズキンと大きく痛む。
今までの殆どの恋愛は、
全て自分で、把握していた気がする。
__この人は、きっと私を好きになってくれる。
だから私からも、もっと近づいて大丈夫。__
なるべく誰も傷つけない、自分も傷つかない。
そうやって得てきた恋の全てを、
否定するわけでは無いけど。
三白眼を細めた人懐っこい笑顔、
本気度が伝わりにくい、ふざけた口調、
目がチカチカする白に近いアッシュの髪。
勝手に私の心に土足でズカズカ踏み込んできて、
笑って缶ビールとサキイカを渡してくるあの男。
私の迷いは、もうとっくに
___"久箕 梓雪のことが、好きか否か"
それを認めるかどうかだけだった。
「…どうしても、手を伸ばしたい人がいます。」
目の前にいる彼を、傷つけてしまうかもしれない。
それでも。
こんな風に痛みを伴ってまで、あの男へ向かうはじめての衝動を私は手放せない。
手放したく、無い。
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