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「枡川さん。」
「はい。」
「…私ね、全然女らしくないです。前にも言いましたけど。いつも自分を偽って、必死でした。」
「……はい。」
「だから。
瀬尾さんを好きになったのは、予兆だった気がします。」
「予兆…?」
「きっかけは、さりげないことでしたけど。
桝川さんの全部を受け入れて見守る、そういうあの人の包み方に、入る隙間なんか無いって分かってたのに、惹かれました。
…全てを受け入れてくれる人なんて私には居ないって、思ってきたから。」
全力で真正面からの恋なんか、
私には、やってこない。
そう諦めていたけど、本当はずっと、
____この2人の恋が、羨ましかった。
視線を落としたおつまみが、何故か唐突に滲んでいく。
でも、目の前の彼女が、渡したリーフレットを丁寧に持ったまましっかりこちらに耳を傾けてくれているのに気づいて、発する言葉を止めるわけにはいかなくなった。
「…いや。
やっぱり、まどろっこしい言い訳は無しにします。
_____瀬尾さんが、好きでした。」
そう白状すると、彼女はじっと噛み締めるように頷く。
「でも私は、面倒なので。
どヘタレな2人がくっつかないのをイライラしてたくせに、うまくいったって分かったら、私、桝川さんに”おめでとう”を言えないって思いました。
…あの日、きっと私に報告してくれようとしてたんでしょう?」
____"…保城さん、あの、"
2人で初めてこの居酒屋に来た時。
私は彼女の言葉を察して、遮った。
「保城さん。」
ごめんなさい、そう続けて謝罪しようとした私を透き通った声が呼ぶ。
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