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「保城さん、ごめんなさい。」
「え…?」
そして予想外に、先に謝罪されてしまった。
どうして、桝川さんが謝るの。
とっくに濡れた瞳のまま、心で問いかけながら改めて彼女に視線をやると、桝川さんの方がぽろっと一筋涙をこぼした。
「…私、逆だったら、祝福なんか出来ない。
そんな話されても反応にきっと困るし、もしかしたら腹も立つかも。
保城さんに伝えるのは、ただの自己満だって、もうお会いすべきじゃ無いかもって、思おうとしたのに。
……私は諦められず、保城さんを飲みにお誘いしてしまいました。
瀬尾とのことの他に、言いたいこともあって…、」
「言いたいこと…?」
一度溢し始めたら止まらなくなったのか、流し続ける涙もそのままに枡川さんは頷く。
「…"定期的に、飲みに行ってくれませんか。"
あの日の帰り際、そう言おうとしたんですが、無理でした。」
"…保城さんは、向こうの駅ですか?"
"はい。では此処で。ありがとうございました。"
"…あ、"
"?どうかされましたか。"
"…いえ、何でもないです。"
"プロジェクト、最後までどうぞよろしくお願いします。"
何それ。
そんなこと、言ってくれないと全然、分からない。
「プロジェクトが終わって、保城さんとお会いできなくなるのは、辛いです。
会社にお邪魔することも減ってしまって、既に寂しくて、重い手紙も書きました。」
もうすっかり頬を濡らす涙を、おしぼりでぐいっと拭う彼女を見守りながら、少し時間をかけて、漸く彼女の予想外の告白を咀嚼した。
そして、それを終えたら、空気を吐くと共に笑みが漏れた。
なんなの、この人は。
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