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「…今日、シフト入ってないんですかね。」
そう言って、お店の中を確認する桝川さん。
「…居ないと、思います。」
だって、本当は今日来た時。
すぐにこっそりと店内を確認したから。
もしも居たら、話したい事があるって、それを伝えるつもりだった。
でもあの明るい髪を今日は見かけることは無かった。
桝川さんがそっか、と呟いたタイミングで前に注文していた梅水晶が運ばれてくる。
「久箕君ってなんか勝手に、いつも居るイメージがありました。」
「…そうですね。」
いつも、居た。
いつも、待ってくれていた。
桝川さんの意見に素直に頷くと
「それ、梓雪のことですか?」
奴と同じ黒のシャツを着た店員さんが、バッシングがてらそう尋ねてきた。
「あ、はい。今日お休みですか?」
「あいつ、辞めたんですよ。」
「え…!?」
教えてくれた店員さんの言葉に、枡川さんが驚嘆の声を素直にあげる側で、身体がかちん、と確かに音を立てて止まってしまう。
「引っ越すからって言ってました。
あいつ目当てで来てたお客さんとか、結構居ましたからねー。今日めっちゃ聞かれます。」
「…引っ越すって…、」
何も言葉を発さない私の代わりに、枡川さんが戸惑いつつ尋ねてくれる。
「はい。遠くなるからって。
多分バイト掛け持ちしてたと思うんですけど、全部辞めるそうです。
確か、今日はそっちも最終出勤日って言ってましたよ。」
丁寧に教えてくれた店員さんは、ごゆっくり、と言って慌ただしく別のテーブルのお客さんに呼ばれて去っていった。
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