These05.

28/43
前へ
/203ページ
次へ
「…今日、シフト入ってないんですかね。」 そう言って、お店の中を確認する桝川さん。 「…居ないと、思います。」 だって、本当は今日来た時。 すぐにこっそりと店内を確認したから。 もしも居たら、話したい事があるって、それを伝えるつもりだった。 でもあの明るい髪を今日は見かけることは無かった。 桝川さんがそっか、と呟いたタイミングで前に注文していた梅水晶が運ばれてくる。 「久箕君ってなんか勝手に、いつも居るイメージがありました。」 「…そうですね。」 いつも、居た。 いつも、待ってくれていた。 桝川さんの意見に素直に頷くと 「それ、梓雪のことですか?」 奴と同じ黒のシャツを着た店員さんが、バッシングがてらそう尋ねてきた。 「あ、はい。今日お休みですか?」 「あいつ、辞めたんですよ。」 「え…!?」 教えてくれた店員さんの言葉に、枡川さんが驚嘆の声を素直にあげる側で、身体がかちん、と確かに音を立てて止まってしまう。 「引っ越すからって言ってました。 あいつ目当てで来てたお客さんとか、結構居ましたからねー。今日めっちゃ聞かれます。」 「…引っ越すって…、」 何も言葉を発さない私の代わりに、枡川さんが戸惑いつつ尋ねてくれる。 「はい。遠くなるからって。 多分バイト掛け持ちしてたと思うんですけど、全部辞めるそうです。 確か、今日はそっちも最終出勤日って言ってましたよ。」 丁寧に教えてくれた店員さんは、ごゆっくり、と言って慌ただしく別のテーブルのお客さんに呼ばれて去っていった。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1743人が本棚に入れています
本棚に追加