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この時間、夜の繁華街は昼間には無い独特の賑わいを見せる。
アルコールで浮足立った雰囲気に呼応するように、騒がしい声を其処彼処であげる人混みをなんとか掻き分けて、全速力で走った。
「…はあ、っ、」
もう随分と、こんな風に走ったことは無い。
ぼやけてしまう視界を振り切るように、大きな息を吐き出して、なんとか呼吸を繋いで。
走るのって、こんなにしんどいんだ。
知っていたようで分かっていなかった取り止めもないことが、頭の片隅で浮かぶ。
__「……なんで、信じてくんないの?」
私に気持ちを伝えてきたあの男の、切ない声がこだましている。
本当に、馬鹿だ。
跳ね除けることに、疑うことに、
慣れて、慣れようとして。
自分を守ろうとした私は
きっと、あの男を傷つけてしまった。
足は止められないし、もう止めたくない。
じわっと瞳が滲むのを多めの瞬きで遮って、
もつれそうな足を必死に動かして、
真っ直ぐになんとか進もうとする"走る"行為は。
__あの男へと向かう恋に、どこか似ている。
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