These05.

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「…梓雪。」 私がもう一度耳元で名前を呼ぶと、拘束されていた腕が少し緩まった。 真っ暗に近い景色の中、お互い背中にまわる手はそのままに向き合う姿勢を保って、私はくっきりと喉仏の見える首元からその顔へと視線を上げた。 至近距離で綺麗な三白眼とかち合う瞬間、 私はあることに初めて気がつく。 私を易々と見下ろしてしまう男は、夜に溶け込まない、いつものアッシュの髪じゃ無くて。 ____黒髪、だった。 嗚呼、もう本当にこの人は、 今のこの場所から、きっと居なくなるつもりだ。 それを同時に理解してしまえば、 やはり涙が止まらない。 「紬、どうした。」 ちょっと焦りの滲んだ声色でそう静かに問いかけながら、親指の腹で私の目尻の涙を拭い取った。 「梓雪、待って…」 「……え?」 「まだ、行かないで……、」 私はまだ何も、伝えられてない。
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