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「なんか嬉しいな。」
「何が?」
「そんなに俺に興味持ってくれて?」
いつもの軽い口調でそう言いつつ振り返ると、女はその言葉を少しの沈黙を経て理解し終えた後、気まずそうに睨みつけてきた。
でも、そうしてくる顔は既に赤いし、効き目は無い。
「…そんなんじゃ無いし。」
「はいはい。紬は照れ屋で困る。」
クスクス笑いながら、もう片方のシューズも同じように履いていると、否定を全く受け入れていない俺の返事が不服だったのか
「…早く行きなよ。寝坊したくせに。」
と、理不尽な指摘を受けた。
いや、誰のせいだと思ってんの。
今度はこっちが不服を伝えてやろうかと再び後ろへ視線を合わせると。
「……いってらっしゃい。」
朝に弱い女がわざわざ起きてきて、寝起きの声のままに、そんな風に結局は笑って見送ってくる。
あーもう。
俺は絶対、この女には敵わない。
そう思った瞬間には、右手を紬の頬に添えて少し顔を傾けつつキスを落としていた。
視線を近い距離で絡ませていると、当たり前に別の気持ちが湧いてきて。
「…行くのやめようかな。」
「早く行きなよ。」
瞳を細めつつ、またそう促してくる女の唇に笑いながらもう一度だけ触れて、俺は部屋を出た。
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