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___それは夜の暗さに、
目が慣れ始めている頃だった。
陸上をやってた時は、日中の容赦無い日の光を避けるために眠い目を擦って早朝練、の流れが多かった。
外を出れば、段々と昇りつつある朝日と当たり前のように顔を合わせていた日々。
でも、大学を卒業して実業団に入って。
走ることが、自分の中で分からなくなって。
レースの後にタイムを見るのが怖くなった。
自分ががむしゃらに走れば走るほど、求められていた数字とは程遠くて、「違う」とまるで毎回突きつけられているような感覚。
走った後は、喉の奥から迫り上がってくるように血の味が広がった。
どんなに呼吸を整えようとしても、競り立てる心拍にこびりつくようなその嫌な味が、ずっと鉛のように残るようになっていた。
「久箕くん、レジお願い〜」
「はい。」
怪我を機に、会社を辞めて。
アルバイトを探し始めたら、なんとなく今まで規則正しい生活の中で生きていたからか、深夜バイトだとかそういうものがやけに気になった。
自宅からは、歩いてそこそこの距離のコンビニを選んだのは、あまりに近いとバイト関係の人間と出くわす機会が多過ぎる、そう思ったから。
終電もとっくに終わったこの時間、店の中はさほど人の出入りは多くない。
レジの前に立ち、やけにテンションの高いBGMの音楽を耳に取り入れては流す作業を続けていると、視界の端で入り口の自動ドアが開いたのが分かった。
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