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もう一つのバイトは、こじんまりした入り口に
赤提灯のぶら下がったような居酒屋。
出来れば賄いが出るところが良い、
本当にそのくらいの理由だけでアクセスが良さそうなところに絞って、選んだ。
同じように酒を出す空間でも、若い大学生があまり集わないような
……まあ酔っ払ったサラリーマンは多いけど、
このバイト先をそれなりに気に入っていた。
あの変な干物女に会ってから数日後、いつも通りシフトに入る。
大体平日は、19時半頃からピークを迎える。
次第に騒がしくなっていくホールをあちらこちらに動き回っていると、昔ながらの引き戸の音が来客を告げた。
「いらっしゃいませ。」
目を向けるとそこに立っていたのは、俺が働き出す前から、相当常連の男。
「こんばんは。」
視線が合うと、奥二重の瞳を細めてゆるく笑った。
すらりと身長は高いのに、なんかだるそうな雰囲気がいつもある。
やけに整った顔立ちのこの男は、恐らく人気があるだろうけど、その心が、とある女1人にしか向いていないことはただの店員の俺でも、もう呆れるくらいに分かっていた。
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