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「おかえり、シャワー浴び……何持ってるの。」
玄関まで迎えに来た紬は、バスタオルを抱えながら、俺が持っているものに気づく。
「黄金コンビ。」
そう言いながら差し出すと、突然のことにパチパチと瞳を瞬いて、そのままふわりと微笑む。
「……これは、何でくれるの?」
「"今日も俺の彼女は可愛いで賞"。」
「……梓雪の方が絶対、馬鹿だね。」
わざわざ買って来たの?と、クスクス笑いながらそれを受け取ろうと手を伸ばしてきた紬を片手で容易く抱き寄せた。
そのままキスを一つ落として、距離は離さずに視線を合わせると大きな瞳が見開かれている。
「…キス魔。」
「うん、知ってる。」
弱々しく睨みながらそう非難されて、それがまた可愛くて再び唇を重ねると「早くシャワー浴びなよ」と顔面にタオルを押し付けられた。
◻︎
シャワーを浴び終えてリビングへ向かうと、人影は無く。
寝室を覗けば、ベッドに膝を折るように丸まって寝転んで、スマホを見ている干物女が居た。
集中しているのか、俺には全く気付いていない。
静かに忍び寄って、そのまま彼女のすぐ傍に腰を下ろすと、当然マットレスが揺れる。
「っ、!」
そこで初めて俺が居ることに気づいて、スマホの画面を胸元に隠しつつ紬がこちらを見向いた。
「……びっくりした。」
「今、何見てた?」
「………え、」
「スマホ。」
「て、天気予報。」
「ふーん?今日の天気は?」
「……多分ずっと晴れ…」
しどろもどろになりつつ吐いた答えが嘘なのはとっくに分かっている。
未だ寝たままの紬を拘束するように、両手を彼女の顔の横につきながら覆いかさぶる態勢を取ると、紬の焦りが嫌でも伝わる。
沈黙の中でギシ、とベッドの揺れる音だけが耳に届いた。
上から見下ろすと、より小柄な女が華奢に見えて嗜虐心に似たものがあっさりとそそられてしまう。
「な、に…」
「なんで、ランニングシューズ見てたの?」
「、」
俺の質問に、ギョッとしたような顔をした女はその後、溜息を吐き出す。
「…最初から分かってたなら言ってよ。」
「ごめん可愛くて。」
「意味がわからない。」
顔を近づけて、不服そうな紬のおでこや眉間に唇で触れると、擽ったそうな反応を見せられる。
そのまま首筋にも這わせようとしたところで、ズイ、と顔へと差し出されたスマホの画面に、動きを食い止められてしまった。
「一緒に、選んで。」
「……ランニングシューズ?」
聞き返すと、こくりと頷く女の顔が再び赤い。
お酒をいくら飲んだって赤くならないくせに、どういう仕組みなのか、愛しすぎて困る。
「…紬、走るの興味あんの?」
「無かった、けど…、梓雪が言ったんじゃん…」
「何?」
「大事な人の好きなもの、気になるって…」
おずおずと口にした理論は、確かに昨日俺が言った。
それを彼女から言われた時の破壊力を、俺はきちんと理解できていなかったな、と心臓の拍が乱れ始める中で実感していた。
「紬は馬鹿。」
「なんなの?どっちにしろ馬鹿って言う。」
「そんなこと此処で言うのが馬鹿。」
「え?」
「シューズ、一緒に見よ。」
「…本当?」
「ん。後でいくらでも選ぶから、今は無理。」
そう笑って、可愛いことばかりを言ってくれる唇に噛み付くようにキスを落とせば、触れ合う合間に観念したかのような吐息を漏らした女の細い両腕が、首に回った。
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