番外編2

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ちゃんと聞いてるよ、そう伝えてくれるかのような相槌が嬉しくて私はスルスルと言葉が出てしまう。 「…別に一緒に食べたり飲むわけじゃないけど。 "ほんと好きだな"って、隣で笑ってる男が居ないと、私、寂しくなってしまいました。」 1人で干物化して、夜な夜な買い出しして。 缶ビールにサキイカ、その黄金コンビと過ごす週末は至福だったのに。 『…紬。』 三白眼に孤を描いて、優しく表情を崩して。 映画がサスペンスだったら頼んでも無いのに勝手に犯人を予想して教えようとしてくるし、アクション系だったら頬杖ついて適当そうなくせして、本当は目をキラキラさせて観てたりするし。 ____私は、梓雪が居ない金曜日が、 すごく、寂しい。 1人きりの部屋で過ごすのが嫌で オフィスに残ろうかと思ってしまうくらいに。 ”紬さん。” 「…ちひろさんになら、言えるのになあ。」 なんだか思わず泣けてきそうになって、慌てて明るく努めてそう言う。 私、なんなんだろう。 こんな重い気持ちは今まで自分でも抱えたことが無くて、戸惑ってしまう。 ”紬さん。久箕君にそれ、言ってください。” 「え…?」 ”絶対、言ってください。 こんなの本人が聞いたら大変です。” 「…大変、とは…」 ”今聞いてて、ときめきで倒れそうになりました。 久箕君も、ときめいて死ぬかもしれません。” 予期していなかった彼女の言葉に、ふふ、と軽く笑いを含んだ空気が漏れる。 それも冷えて白く舞って、夜にふわりと消えていく。 「それは、やめた方が良いですね。」 ”…やめないで下さい。 私はヘタレなので、なかなか思ってること言えないですが。 さっきの紬さんの言葉。 逆だったら、久箕君がそう思ってくれてたら、 とても嬉しくないですか? 自分が言われて嬉しいって思える言葉なら。 少しだけ、勇気が出ます。” 『金曜は大体いつも一緒だったから。 紬、寂しくて泣いちゃうかなと思って。』 そうだよ、まんまと泣いてるよ。 梓雪は、違うの? 「……部屋で帰りを、待ってる、くらいは 言ってもいいでしょうか。」 ”ぜんっっっぜん大丈夫です。 根拠ないですけど保証します!!!” 力強い彼女の言葉に、やっぱり笑ってしまった。 必ずまた近いうちに飲みましょうと約束をしてちひろさんとの電話を切る直前。 "おい、リア充しか居ないわけ?" と、やたらハキのある、それでいて艶やかな声が聞こえた気がした。 そうして1つ、深呼吸をしてから あの男とのトーク画面でメッセージを打ち込んだ。 送信、を押すまでには それなりに時間がかかったけど。 《どんなに遅くなっても良いから、 私の部屋に、帰ってきて。 お饅頭が沢山あって、食べきれない。》 ハートマークも付けられない、可愛げの無い言葉。 だけど、逆だったら、私は嬉しいって思うから。 なんとか送り届けて、呼吸を1つゆっくり落とす。 スマホを再びバッグに仕舞い、帰路を急いだ。
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