番外編4

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_____________ ______ 「前科一犯」の私に残された道は、もう絶対になにがなんでも再犯を起こさないこと。それだけしか無い。 「いやいや、紬さんは一生懸命お仕事されてるのにそんな、犯罪者みたいに…」 「関係ないです、向こうだって仕事してます」 「それは、そうですけどね…」 だからこそ後が無いのだと苦い声で吐き出して、ハイボールをぐいと仰ぐと目の前の整った顔立ちが困ったような笑顔に変わった。 いつもの彼女といつもの飲み物を片手に、沢山のおつまみがテーブルに並ぶすっかり見慣れた景色の中。こんな平日の中日でも繁盛している賑やかな居酒屋の店内には、私とちひろさんの他は、見事にサラリーマンの姿しか無い。 ___今日は、なんとちひろさんの会社で私も働いていた。理由は、彼女の会社で最近始まった「オープンオフィスプロジェクト」に起因する。オフィス家具メーカーとして、どんな空間をつくりあげることが出来るのか、自社のオフィスで実際にお客さんに働いてもらってその感覚を掴んでもらう、という画期的な取り組みだと思う。   私も相変わらず社内のオフィス運営委員会の活動は続いていて、なんなら冬に横浜支社のリニューアルを行う際のアドバイザー的なポジションもいつの間にやら授かってしまった。 「また仕事が増える…」と以前、愚痴をちひろさんにこぼしていると、このプロジェクトのことを教えてくれた。「気分転換と新しいオフィスのイメージを掴む のも兼ねて、うちの会社に遊びに来ますか!?」とありがたい提案にお言葉に甘えた。 先週から横浜支社の人達との打ち合わせも始まっていて、とにかく仕事中のバタつき具合が加速していて。 通常業務との並行に走り回る私の仕事中の癒しは、いつのまにかデスクに置かれているほむさんからの(毎回違う)お饅頭だけだった。 仕事以外の癒しは、絶対本人には言わないけど、やっぱりあの男との時間が大半を占める。 「金曜日、たまには家飲みばっかりじゃなくて、美味しいもの食べに行く?」と笑った梓雪との約束が私のモチベーションだった。 …のに。
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